●有名を探す楽しみも

 SNSで盛り上がる猫アートで目立つのが「猫の相互乗り入れ」だ。

 アーティスト同士が猫を介してつながり、お互いの愛猫が作品にチラリと“カメオ出演”する。普段SNSで見かける猫を、作品中に探し出すのを楽しみにするファンも多いという。

『ネコヅメのよる』には、作者の町田さんが親しくしているギャラリーの看板猫や、友人の飼い猫に加え、東北の被災地で保護され里親を探している猫や、すでに亡くなった猫たちの姿なども描かれ、猫好きの胸を射る。

 思わぬ形で猫の作品を世に出す作家もいる。イラストレーターの坂本千明さんが注目されるようになったのは「紙版画」。

病気で弱っている猫を保護したんです。それが今は亡き、楳でした。最初はどうしていいかわからず、友人やネットを通じて、いろんな人に助けてもらいました」と坂本さんは話す。

 お礼にと、お世話になった人たちの飼い猫をモデルに紙版画を作ってプレゼントしたのが愛猫以外の猫を本格的に取り上げたきっかけだった。

「楳が白黒だったので、版画にしやすかったのもあります。それで、楳と、今飼っている墨(すみ)と煤(すす)のことを、ストーリー仕立ての連作にしたところ、一冊にまとめてみたら?と勧められて」

 そうして生まれたのが、自費出版の『退屈をあげる』。懇意にしているギャラリーを通してじわじわと人気が広がり、現在すでに4刷のヒット作になった。

 坂本さんはSNSにも保護した猫をアップした。

「2年前には、青森の実家で保護した『シノビ』をよく載せました。人にまったく慣れていなくて一苦労しましたが、今は無事、里親さんのお宅で快適な家猫暮らしをしています」

 シノビが次第に心を開き、幸せになってゆく姿を、全国数千のフォロワーが見守ってくれたという。

●人生を変えた猫も

 猫とSNSがきっかけで人生が変わり、作家になった人もいる。会社勤めをしながら、保護した猫、「こむぎ」の写真をインスタグラムにアップしたとたん、フォロワーがあっという間に28万人に。それが『こむぎねこ』(主婦の友社)の著者、tomoさんだ。

「こむぎには先天性の心臓病があったんです。余命半年と宣告されたときは目の前が真っ暗になりました。ネットを通して多くの方に教えられ、励まされて。そのお礼にと、写真をまとめているうちに本になったんです」

 tomoさんの人気の秘密は、こむぎちゃんの愛らしさに加えて、tomoさんの部屋にもあった。洒落たインテリアにすっきりと片付いた部屋、ところどころにアンティーク雑貨が並ぶ様子は、「インドア派」の心をしっかりとつかんだ。

 結局、こむぎちゃんは今年3月3日、短い命を閉じた。だが、tomoさんは今、猫写真家として一歩を踏み出そうとしている。

「こむぎが教えてくれた気がするんです。猫を写真に撮ったり、私にできることで猫とかかわっていくのが向いてるよって」

 こむぎと同様、保護され、回復する様子の投稿が人気になったのが、「わさびちゃん」だ。

 北海道で、ゴールデンレトリーバーのぽんずちゃんやインコたちと暮らしていた“父さん”“母さん”が何とか子猫を救いたいとツイッターで情報を発信すると、爆発的にフォロワーが増え、海外にまで拡大した。

 ほどなくして書籍化の話も進み、いよいよ完成間近のある日、突然容体が急変して、わさびちゃんは亡くなってしまう。保護からわずか、87日だった。

 2人はいったんは出版中止も考えたが、「野良猫だってこんなに可愛い、大事な家族になれるということを知ってほしくて」(母さん)、『ありがとう! わさびちゃん』(小学館)が刊行された。

 わさびちゃんの死後、“父さん”“母さん”は個人的に保護猫活動を始めた。3年間で、保護した猫は54匹。里親になり、SNSを始めて新たな保護活動をする人も出てきたという。

 SNSと猫とアート。抗えぬ魅力で多くの人を巻き込みながら、その盛り上がりはますます加速しているようだ。(ライター・浅野裕見子)

AERA 2016年11月28日号