約40分の作品は、3楽章に分かれる。冒頭は教会にいるかのような静けさと荘厳な緊張感。音楽が動き出すと、不吉な予感がしたり、窓から日が差すような温かさを感じたり。音色は次々と変わっていき、何度も不意をつかれる。喜怒哀楽がわかりやすく伝わってきて、クラシック初心者でも聴きやすい。

 本作には、文化人から激励の言葉が寄せられた。

「私は、悲しみを、のりこえようという祈りを聞いた。世界の人に聞いてもらいたい!」(黒柳徹子さん)

「一見、まるでキートンのようなクラウン(道化師)を演じながら、心の中ではずーっとファイティングポーズを取り続けている。一連のゴーストライター騒動からの最初の作品がヒロシマやフクシマをテーマにするなんて、まったく。なんて度胸だ!」(ビートたけしさん)

●音楽家として応えたい

 新垣さんは、英国の名門レコード会社「Decca」から世界配信されることについて「嬉しいを飛び越えて、どうしたらいいんだろう、というレベルです」と喜びを表現。各界からの応援についても、「ありがたいと思います。みなさんが助けてくださった。それに音楽家として応えたいという気持ちもあります」と思いをにじませる。

 これまでも新垣さんは、演歌歌手の坂本冬美さんとのコラボや、週刊文春から「張り込み取材中に聞きたい曲」として依頼された「交響曲HARIKOMI」を制作するなど、音楽の楽しみ方を広く伝えている。

「最初から最後までひとつのお話として、長編小説を読む感じで、クラシックファン以外の人にも聴いてもらいたいです」(新垣さん)

 来年1月23日には、東京・赤坂のサントリーホールで、世界リリース記念のコンサート「新垣隆展 サントリーホール・コンサート」を開く。もう、「ゴースト」ではない。(ライター・塩見圭)

AERA 2016年11月14日号