三井の株主には全棟建て替えの経営判断への反発もあろう。建て替えではなく、杭が未達の1棟だけの補修で済めば費用は50億~100億円で収まるといわれる。「全棟建て替え」のアナウンスで三井ブランドを守りつつ、住戸を買い占めて議決権行使の影響力を高める。住民側に高いハードルを課し、場合によれば補修へ転換。そんなしたたかな戦術が浮かび上がってくる。

 メディア対応に当たる三井不動産の広報担当はこう反論する。

「一部の区分所有者の方が売却されて移られたのは、そのとおりですが、決議を賛成、反対のどちらかに誘導しようという意図は当社にはまったくありません。いろいろな所有者の考えをお聞きするなかで個別に判断して買い取った。結果的に議決権が集まったわけで、いくつ持てるかは想像もできませんでした」

●水面下で激しいバトル

 では、住戸の買い取り価格は「再調達価格」だったのか?

「買い取り価格に関しては、それぞれプライベートな問題がありますので控えたい」

 管理組合に「住民だけで5分の4以上」の賛成があれば賛成に回ると伝えたのは事実か?

「管理組合とのやりとり、各論的な部分はプライバシーにも関わるので控えさせていただく。ただ、住民の皆さんの総意に従う、と申し上げてきた。当方の票がなかったら、住民の方々はどう判断されたのか、そこには当然注目しました」

 交渉の機微への質問を三井不動産の広報はするりとかわした。

●発端は管理の見直し

 管理組合は巨大で手ごわい三井と水面下で激しいバトルをくりひろげてきた。今一度、闘いの軌跡をたどってみよう。

 発端は日常的なマンション管理の見直しだった。2006年に分譲を開始したララ横浜も、築後7年、8年と経つうちに「大規模修繕」が視野に入った。だが三井系管理会社の修繕計画では積立金が不足しそうだった。

14年夏、管理組合はコンサルティング会社に管理会社への委託業務の見直しを依頼する。そのころ、修繕委員会のメンバーが棟と棟の間の手すりの段差を見つけた。建築構造上の問題があるのではないかと感じ、三井側に調査を求める。

 当初、三井側は「問題ありません。東日本大震災の影響でしょう」と調査に消極的だったが、管理委託契約の見直しがボディーブローのように効いたのか、レベル測定を行う。15年6月には杭のボーリング調査もした。ただ、施工記録の開示は何度求めても拒んだ。同年8月、関係者立ち会いのもとやっと記録の閲覧が行われ、翌月、「杭の不健全性」を認めた。

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