マーケティング会社に勤める女性(39)は、この制度を利用して、秋生まれの次男の9月入園が実現した。長男の時は、生後7、8カ月での夜泣きがひどく、今回もこの時期に仕事復帰はできないと思い、予約制度を利用することにした。

「長男のときはまだ育休中でしたが、仕事しながら夜泣きに対応するのは体力的に持たないので、次男のときも1歳近くまで育休を取りたいと思いました。素晴らしい制度があって、葛飾区に住んでいてよかった」

 予約制を導入している東京都品川区では、37の区立認可保育所で146人分の予約枠を設けている。子どもの1歳の誕生日前日以降まで育休を取得することが条件で、出産の翌月の月末までに申し込み、選考は入園希望日に基づいて年4回。昨年度は582人の申し込みがあった。外れた場合は4月入園にも申し込めるので、タイミング次第では2度チャンスが生まれる。

 ここまで見てきて、入園予約制は利点が多く、期待も高まるが、「実現は簡単ではない」と指摘するのは、待機児童問題に詳しい東京都市大学客員准教授の猪弘子さんだ。

「予約を受けるためには、事前に保育士を確保しておく必要がある。入園の枠を空けて待つのは、待機児童が多い中ではなかなか難しいのではないか。また、育休がない自営業者は利用できず不公平。保育園が圧倒的に足りない現状が変わらなければ、結局は予約枠の取り合いで、解決にはなりません」

●恩恵ないフリーランス

 予約制度は、予約者よりも保育の必要性が高い家庭の子どもが待機児童になってしまう「逆転現象」の可能性があることや、育児休業制度がない自営業者などから見て公平でないと指摘される。実際、横浜市は予約制の導入を検討していたがそういった理由で見送った。

 自営業者や自宅で勤務しているフリーランスの人は、もともと会社員と比べて保育園に入りにくい。そのうえ、ただでさえ少ない枠が会社員を前提とした育休制度利用者に取られてしまえば、自営業者が子どもを認可保育園に入れるのはますます難しくなる。

 4歳の息子と2歳の娘がいるイラストレーターのうだひろえさん(39)は自身の経験から、

「国が女性活躍や自由な働き方を掲げるなら、フリーランスの子育てについてももっと考慮してほしい」

 と訴える。2年前まで横浜市に住んでいたが、第1子はなかなか保育園に入れず一時保育や夫の休日などを利用して仕事を続け、1歳半のときに空きの出た認可園に入園した。ただ、第2子を妊娠した後、育休のないフリーランスの場合は、出産後8週間の産休明けに子どもを預けないと働いていないとみなされて、第1子が退園させられることを知った。だが、息子の通う保育園には、生後6カ月経たないと預かってもらえない。うださんは、1カ月健診が終わってすぐに保育園を見学し、3月に空きの出る認可外の園を見つけた。2園は家からそれぞれ反対方向にあり、朝夕1時間かけて送り迎え。毎日無駄な時間だと感じていたという。

 保育園を考える親の会代表の普光院亜紀さんは言う。

「限られたパイを争っている保活では、どっちかを立てればどっちかが泣き、根本的な対策にはならない。ただ、0歳児は保育園での事故のリスクも高く、親が望むならできるだけ手元で育てられるほうがいい。命の問題を考えても、育休を切り上げないですむ予約制はメリットがある」

 入園予約制は、理不尽な保活を少しでも改善できる救済策になり得るだろうか。(編集部・深澤友紀)

AERA 2016年9月12日号