給食で断食月を知る

 宗教や風習などの理由から、どうしても異なる対応を求められる場面もある。印象的だったのは、イスラム教徒の児童が、ラマダン(断食月)の期間中、給食を食べなかったときのことだと、村松教諭は振り返る。

「最初は子どもたちの反応がわからず、どう説明しようかと考えましたが、別の席で本を読んでいる友だちを見て、あっさり『あ、今日は食べない日なんだ』と自然に受け入れているのに、驚きました」

 中休みの校庭からは、“Can I Play?”「いいよー」という会話が聞こえ、友だち同士が鬼ごっこをして遊んでいた。

「普段の何げない学校生活の中で、それぞれの文化や国によって違う考え方に触れているんだと感じます」(村松教諭)

 ホームステイなど海外の子どもたちと交流する機会をつくることで、国際化教育を進めているごく普通の公立学校もある。

 東京都荒川区立原中学校では、校内選考で募った生徒4人を、夏休みを利用してマレーシアに派遣する独自の事業を今年初めて実施した。生徒たちは、7月31日から7日までの約1週間、マレーシアの一般家庭でホームステイしながら、現地の学校で同世代の子どもたちと同じ授業を受け、交流を深めた。

 マレーシアでの交流事業を進めたのは、5年前に着任した刑部之康(おさかべゆきやす)校長だ。刑部校長は08年からの3年間、マレーシアのペナンで日本人学校の校長を務めた経験があり、生徒たちがじかに国際交流する機会づくりに積極的だ。

 マレーシアへの生徒の派遣事業でも、ホテルなどの宿泊施設に滞在するのではなく、わずかな時間でも、現地の家庭に入ることに意味があると考え、ホームステイにこだわった。

「最近ではIS(過激派組織『イスラム国』)による過激なテロ事件が相次いでいますが、そうしたニュースだけを見ていると、イスラム教への誤解や悪いイメージをつい抱いてしまいがち。実際に現地の人たちと一対一でふれあうことで、本当の姿を理解できるようになると思うからです」(刑部校長)

●ホームステイ受け入れ

 ふれあいを重視した国際化教育は、学校の中にも及ぶ。原中は、マレーシアなど外国の子どもの訪問団を受け入れている。子どもたちは各クラスに入り、日本の子どもたちと同じ授業を受ける。イスラム教徒には欠かせない祈りのための部屋も提供し、ときには生徒の保護者にホームステイへの協力も呼びかける。相手を理解しようとする気持ちが真の国際交流につながるとの思いからだ。

「家が狭いからとホームステイを躊躇する家庭もありますが、一度受け入れると本当によかったと言われます」(同)

 異なるものの見方や考え方に触れるのが、国際化の意義だろう。学校でのリアルな国際交流の経験は、子どもたちの将来にいい影響を与えるに違いない。(編集部・山口亜祐子、小野ヒデコ)

AERA 2016年8月22日号