風間トオル(かざま・とおる)/1962年生まれ。雑誌「メンズノンノ」などのモデルとして活躍し、89年にドラマ「ハートに火をつけて!」で俳優デビュー。現在、映画やドラマ、舞台で活躍中(撮影/写真部・加藤夏子)
風間トオル(かざま・とおる)/1962年生まれ。雑誌「メンズノンノ」などのモデルとして活躍し、89年にドラマ「ハートに火をつけて!」で俳優デビュー。現在、映画やドラマ、舞台で活躍中(撮影/写真部・加藤夏子)

「カマキリの足はちょっと苦いけど、歯ごたえがある」「喉が渇いて、多摩川の水をTシャツでろ過して飲んだら意外にイケた」

 端正な顔立ちに、爽やかな笑顔で知られるイケメン俳優・風間トオルさん(53)。3月に出版された自伝エッセイ『ビンボー魂 おばあちゃんが遺してくれた生き抜く力』(中央公論新社)でも、そんな苦しかった日々をユーモラスに綴っている。50歳を超えた今、当時を振り返る。

「いろんな知恵を授けてくれた貧乏生活はそんな悪いことじゃなかった」

●チョコは365個に

 5歳の時、両親が相次いで家を出ていくと、収入は祖父母のわずかな年金だけという3人暮らしが始まった。

 トタン屋根のアパート。風や雨が容赦なく部屋に入ってくる。祖父は、まもなく認知症が始まった。排泄物を部屋の壁に塗るたびに、風間さんが水で洗い流した。祖母が熱を出した時は、自転車を漕いで病院まで連れていこうとして転倒し、大けがをさせたこともあった。

「代わりはいなかった。僕が2人を守んなきゃと、生意気にそんなふうに考えていました」

 風間さんはちょっとした工夫やアイデアで毎日を楽しくすることを覚えていく。洋服を着たまま洗濯機に浸かるのは、「お風呂と洗濯を兼ねた一石二鳥」の発想。バレンタインデーで、クラスの女の子たちからもらったチョコレートは365個に細かく割って、1日ひとかけらずつ、1年かけて食べた。ホワイトデーのお返しには、近所の公園で拾った松ぼっくりを、クリスマスのオーナメントのように白いペンキで塗って渡した。

「きれいなところに住みたいとかおなかいっぱい食べたいという気持ちは、もちろんありました。でも、それは自分が稼げるようになったらできる。それまでは、この中で楽しく生活していくしかないと思っていました」

 高校生で家を出て一人暮らしを始め、アルバイトでお金を稼ぎ、ようやく「食べたいときに好きなだけ食べられる」生活へと抜け出すことができた。

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