「20代の部下が50代の上司に“大丈夫です”と言ったのは、私を誘ってくださるようなお気遣いはなくて大丈夫です、という意味。本来は、危なげがない場面で使う言葉なので違和感が生じるのです」

 これは、いわゆる言葉の乱れなのか? この点について北原さんは次のように説明する。

「言葉というものは絶えず変化するもの。私は7割以上の人が使うようになったら、辞書に収める候補にしています」

 実践女子大学教授の山下早代子さん(応用言語学)は13年、「大丈夫」の新用法について若者、中年、シニア層の計108人の使用状況と意識を調査した。

 タクシーから降りるとき、運転手から「領収書はいりますか?」と聞かれて断るとき、「大丈夫です」を使うか。20代の約7割は「使う」と答えたのに対し、60代以上のシニア層は約9割が「使わない」。シニア層の7割弱は「ほかの人が使うのを聞いて気になる」とも答えた。

 山下さんは、新用法の「大丈夫」は、英語の「OK」に置き換えると意味が通じると考えている。

「コーヒーで大丈夫(OK)ですか?」「(砂糖はなくて)大丈夫(OK)です」

「大丈夫」という断り方が、英語の「ノーサンキュー」に当たるという見方もある。感謝しつつ断ることで、婉曲に断れて便利とも言えるが……。

「“大丈夫”と言われても、それだけでは答えがイエスなのか、ノーなのかはわかりません。だから、相手の表情とかも見て判断します」

 前出のAさんは、自分の誘いに対して相手が「大丈夫」と返してきたとき、言葉のイントネーションや間投詞を敏感に聞き分けるという。

AERA 2016年2月15日号より抜粋