二次感染が確認された看護師宅の前を歩く防護服姿の男性/12日、米テキサス州ダラス(写真:gettyimagse)
二次感染が確認された看護師宅の前を歩く防護服姿の男性/12日、米テキサス州ダラス(写真:gettyimagse)

 エボラ出血熱が米国で感染を拡大させている。感染症対策最先端の米国は、封じ込めに成功するのか。

 米テキサス州の病院で、エボラ出血熱患者の治療にあたっていた女性看護師が、エボラウイルスに感染した。感染した看護師は10月17日時点では2人。

 これまでアメリカで報告されたエボラ患者は、すべて流行地のアフリカで感染していた。しかし、看護師たちは世界最高レベルの医療と感染症対策を誇るアメリカで感染した。このことの意味は大きい。

 エボラ出血熱の症状は、発熱、激しい頭痛、筋肉痛、脱力感、下痢、嘔吐、腹痛、原因不明の出血傾向など。最後に挙げた出血傾向を除けば、おなじみのインフルエンザや、今年騒がれたデング熱などと変わりのない症状ばかりだ。初期にすべての症状が出そろうことはないので、症状だけでは診断できない。しかし、エボラは致死的な脅威のウイルス感染症。「他とは区別がつかなかった」では済まされない。

 看護師たちがケアしていたリベリア出身の男性患者は、9月26日に外来で「ありふれたウイルス感染症」と診断され、帰宅。28日に隔離された。男性がエボラの確定診断を受けたのは30日。エボラの潜伏期間は最長21日である(男性は10月8日死亡)。

 もし、エボラウイルスが空気感染するのであれば、10月21日までに相当数の人が感染し、発症していなければおかしい。さいわいエボラは、潜伏期には感染力を持たないとされている。男性の病院外での接触者から今後、二次感染が報告される可能性は小さいだろう。

 エボラは患者の体液が、目や鼻、口、性器などの粘膜に直接触れることでしか感染しないと見られている。「エボラがウイルス変異を起こし、空気感染するようになった」と騒ぎ立てる向きもあるが、そのような変異は他のウイルスでも前例がなく、今はその兆候もない。せきや鼻水など体液を飛ばす症状があり、潜伏期にも感染力を持つ季節性インフルエンザなどと比べ、現段階のエボラは、一般の人にとって「感染しづらい病気」と考えてよいだろう。

 では、医療従事者はどうか。テキサスの看護師たちの症例においては、防護服を着脱する手順にミスがあったとの見方が強い。通常、エボラのような患者のケアにあたる場合、頭まで覆うガウンにマスク・手袋・キャップの装備に加え、ゴーグルやフットカバーといった全身を覆う防護服を着用する。口や目などの粘膜をカバーするゴーグルとマスクは最後に外すのが原則だが、それらを先に外したため、手袋を外す際に飛び散った飛沫が目か口から入ったとの憶測もある。

 他のウイルスは、この程度の手順違反では感染を起こさないのが普通。だから、エボラに汚染された体液は、少量であっても相当に強い感染力を持つと考えてよい。医療従事者は、血液、糞便、唾液、汗など体液に触れる機会が多いため、エボラ感染のリスクが極めて高い。特に看護師は、ウイルス量の多い糞便に触れるおむつ替えがあるので、最もハイリスクだ。

(医師・ライター 村中璃子)

AERA 2014年10月27日号より抜粋