靴に対する女性の欲望に理由はない。ホルモンの働きも関係ない。ただ買わずにはいられないだけなのだ(ドキュメンタリー映画「私が靴を愛するワケ」から)。この映画の一節のように、海外の高級ブランド靴に魅せられる女性は少なくない。彼女たちは靴1足に時には10万円以上もかけることもあるという。
「セクシーな靴でないと心揺さぶられません」
そう話すのは、スタイリストの金子綾さん(34)。職業とは関係なく子どもの頃から靴が大好きだった。大学生になるとずっとハイヒール。ペタンコ靴だとかえって「筋肉痛になる」。お気に入りブランドはルブタンだ。
「甲が浅く足の指が見えるのでとてもセクシー。エナメルの定番ヒールを買うことが多いですが、横から見てもその美しいフォルムにうっとりします。昔から6センチ以上のヒールしか履かないので、出産前はヒールを履けないことがかなりストレスに。時々、家の中でヒールの靴を出して履いていたことも」
ルブタンの価格はシンプルなエナメルパンプスで約6万円。凝ったデザインになると
10万円超えは当たり前だ。
なんなんだ、あの靴音は! ライターのユウコさん(35)は大体、6万円以上の靴しか買わない。安価な靴は特有のヒールの音がする。大嫌いなのだ。
「先が削れてカチカチ鳴っているような人は論外ですが、安っぽいパカパカした音がとにかく耳障りなんです」
注意しながら歩いてみると、確かに聞こえる。木製の空洞のケースに何かが入っているような軽い音。だから、彼女が購入する靴はセルジオ・ロッシやジミー・チュウといった靴ブランドが中心。購入ペースは、シーズンの頭に2、3足。靴の年間支出額は50万円以上になる。
金子さんもユウコさんもプレゼンテーションや仕事でここ一番の勝負時はお気に入りの高級靴を履く。それだけで「戦闘モードになる」(金子さん)からだ。高級靴は気分を盛り上げる。(文中カタカナ名は仮名)
※AERA 2013年12月2日号より抜粋