「国内メディアは東京落選を見込んで『首相が原発事故の不安を払拭できなかった』とこき下ろす準備をしていたが、首相はスピーチで見事に跳ね返した。逆バネですよ。昨年、下馬評を覆して勝った総裁選と同じだ」

そんな安倍スピーチを、陰で支える人物がいる。外交ブレーンの谷口智彦氏(56)だ。

 第1次安倍内閣では、国際広報を担当する外務副報道官を務め、今年2月、安倍氏に請われて内閣審議官に就任した。もとは経済誌「日経ビジネス」の記者だ。英語に堪能で、ロンドン特派員時代には「言葉を磨く」ためにと、BBCの番組に定期出演していた。

「日本人として言うべきことはきちんと言わなければならないし、そのためには自分で発信することを躊躇(ちゅうちょ)していては何も始まらない」が持論。首相スピーチには、そんな谷口氏の持論がにじむ。5月の東京での講演で、

「(アジアで)おごらず、威張らず、しかし卑屈にも、偏狭にもならないで、経験を与えるにして寛容、学ぶにして謙虚な一員となるよう、日本人と、日本をもう一度元気にする」

 と語った。自由や民主主義を共有する国と連携する「価値観外交」を掲げたものだ。こうした「理念発信型」の演説を書いたのが、谷口氏と言われる。

AERA 2013年9月23日号