日頃は歴史認識問題などで手厳しい海外メディアも、あの演説は絶賛するしかなかった。2020年の五輪開催地は当初、東京の劣勢が伝えられていた。だが、ブエノスアイレスでの安倍晋三首相の招致演説を、英BBCは「安倍首相が立役者だった」と高く評価。ロイター通信は「カリスマ的嘆願」と世界に伝えた。

 自信たっぷりの笑顔と大きな手ぶり。そして、絶妙な緩急。最後に両手を前に差し出した。「We are ready to work withyou(みなさんと働く準備が、私たちにはできています)」

 心配の種だった東京電力福島第一原発の汚染水問題も、不安の払拭(ふっしょく)に手を打っていた。まず演説で、状況がコントロールされていることを説明。その後の質疑では、「汚染水の影響は原発の港湾内の0.3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」「健康問題は全く問題ない」と念を押した。

 実際には汚染水の流出は止まってはいない。東電自身が、首相の言葉に「完全に遮断ができているわけではない」と戸惑っている。しかし、大見えを切らなければ、国際オリンピック委員会(IOC)委員の理解は得られなかっただろう。首相周辺は胸を張る。

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