銀座 虹の森路上が仕事場。様々な人が話しかけてくる。出稼ぎ外国人には「雇ってくれ」と言われ、実業家だった銀座マダムには「商売ってのはね」と、照明の当て方を教わった。取材中も、全身毛皮を着こんだマダムが来訪。「あんた、まだやっていたのね」(撮影/今村拓馬)
銀座 虹の森
路上が仕事場。様々な人が話しかけてくる。出稼ぎ外国人には「雇ってくれ」と言われ、実業家だった銀座マダムには「商売ってのはね」と、照明の当て方を教わった。取材中も、全身毛皮を着こんだマダムが来訪。「あんた、まだやっていたのね」(撮影/今村拓馬)

 キッチンカーこと、移動販売車で弁当を売る様子などがオフィス街ではよく見られるようになった。そんな中、異色の商品を販売する店が登場している。

「銀座虹の森」代表の虹山虫太郎さん(29)は、銀座の路上で「しいたけの菌床」を売っている。自動車よりもさらに維持費が安い自転車を選んだ。

 金曜の夜6時。銀座の三越裏に虹山さんの自転車が現れた。前にリヤカーのような大きな荷台。その上に、焼き菓子のようにも見える長方形の菌床が陳列されている。商品名は「CTAKEO」(しい・たけお)。仄(ほの)明るいランタンに照らされ、人が絶え間なく足を止めていく。菌床は生産者から直接仕入れた。ポリ袋開封後に水を吹きかけると、何本ものしいたけが生えてくる。一つ1050円。

 3年前に路上で販売を始めた。当初は毎日売っていたが、現在はネット通販や卸売りも手がけるため、自転車での販売は週1回に減らした。それでも続ける理由は、

「人の温度を感じられるから」

 学習院大学に在学していたとき、母親が立ちあげた金融事業が傾いた。なんとか立て直そうと、大学を中退して母親を手伝ったが、リーマン・ショックが到来し、事業はあえなく倒産。その後、曲折を経てネットワーク系企業に就職したものの、一日中パソコンの画面を眺める生活は単調すぎた。頭のなかで昨日と今日がつながり、次第に消耗していった。

 ある日帰宅すると、新聞紙の上でしいたけが天日干しされていた。神経がすり減っていた虹山さんは、思わず足蹴にしてしまう。けれどもそれは、自分の健康を心配した妻が、「栄養のあるものを」という気遣いから用意してくれていたものだった。罪悪感に苛まれた。

 それが縁でしいたけを調べるうち、菌床の存在を知る。

次のページ