死刑制度の是非を議論する前に... 刑務官の苦悩など"死刑の実態"を記したルポ

2022/12/20 19:00

『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル (幻冬舎新書)』佐藤 大介 幻冬舎
『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル (幻冬舎新書)』佐藤 大介 幻冬舎


 日本には死刑制度があります。主要先進国で死刑制度を続けているのは日本とアメリカ(州によっては廃止されている)のみで、これが国際社会では批判され続けています。死刑制度の是非は国内でもたびたび議論の的になっており、日本は死刑制度を支持する国民が多いとされていますが、肯定派の人の中でも死刑の実態について詳しく知る人はそれほど多くないのが現状です。それには法務省が情報公開に消極的であるという一面が影響しているのではないでしょうか。
 死刑制度の是非を議論する前にもっと制度についてよく知るべきなのではないかと気づかせてくれる書籍『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』が出版され、注目されています。著者の佐藤大介さんが、死刑囚や元死刑囚の遺族、被害者、刑務官、検察官、教誨師、元法相、法務官僚など異なる立場の人への取材を重ねて書き上げた一冊です。
 そもそも死刑がどのように執行されるのかご存じですか。死刑囚の首に縄をかける→刑務官数人がボタンを同時に押すと死刑囚の足元の板が開く→絞首刑執行終了→死刑囚の遺体を火葬。だいたいこのような流れで、関わる刑務官は3、4人ほどだとイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし1人の死刑に対して想像以上に多くの人々が関わっており、その苦悩は計り知れないものだということが同書を読むとわかります。
「立ち合い役の幹部以外で、執行に直接携わる刑務官は6~7人。元幹部によると、勤務態度が優秀なベテランと若手が選ばれ、妻が妊娠中であったり、家族に病気の者がいたりする場合などは対象から除かれるという。元幹部は『明文化されているわけではないが、身内に何かあった場合に「自分が死刑に関わったからではないか」と刑務官に思わせないため、慣例的な配慮をしている』と明かす」(同書より)
 刑務官の中には「警備隊」と言われる屈強な人たちがおり、その人たちが嫌がる死刑囚を房から出して刑場まで連れて行くのだといいます。死を目前にした恐怖から暴れる死刑囚も少なくないでしょう。
「『言ってみれば、拘置所内の汚れ役ですよ。(中略)警備隊員も「頼むからおとなしく刑に服してくれ」と、心の中では思っているんです』 元幹部は苦々しい表情を浮かべながら、そう話した」(同書より)
 このほかにも過酷な仕事をしなければならない刑務官がいます。それは、板が開き落下した死刑囚の体を受け止める2人の刑務官です。落下した際に死刑囚の体が大きく揺れてロープのねじれで体がぐるぐると回り、「立会人に対し、残酷な場面を見せることになる」(元刑務官)からだそうです。
「この『受け止め役』は死刑執行に立ち会う刑務官のなかでも最も敬遠される仕事で、拘置所幹部から指名された際、泣き顔になりながら『勘弁してください』と悲願したベテラン刑務官もいたという」(同書より)
 これらの人々に対して「刑務官になったのだから仕方がない」「それが仕事だからやるしかない」と思うでしょうか。死刑という制度であっても"人を殺すこと"に対して刑務官たちが気に病まないわけがありません。佐藤さんが関わった死刑囚へのアンケートには、死刑囚から刑務官に対するこんな回答がありました。
「名古屋での執行のとき、(刑務官が)苦しそうに辛そうに仕事をしておられ、執行があったのは(ニュースで)知っていたため、願い事など当時はいろいろとたのんでいたために、大変だと思ったので、私は今日は願い事とかいいので一日休んでくださいと言ったところ、今にも泣きそうな状況で『ありがとう。そんなこと言ってくれるのお前だけだわ』と言ってポロッと『長いつきあいの奴を、なんのうらみもないのに......』と帰って行きました。国民は刑務官のこのような苦悩を知りません」(同書より)
 本稿では刑務官の苦悩のみにフォーカスして同書の内容を一部紹介しましたが、同書ではほかにも、死刑囚が考える死刑制度の是非、東京拘置所の一日、死刑を望まない遺族の声、絞首刑は「残虐な刑罰」かなど、死刑制度の実態がさまざまな角度から語られています。これまでイメージだけで死刑制度の是非を議論していた人は、この機会に一度同書を読んでみてはいかがでしょう。詳しく知ることで死刑制度への見方がこれまでと変わるかもしれません。
[文・春夏冬つかさ]

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