国の23年度一般会計予算の歳出・歳入の内訳を見ると、歳入のうち、新規国債の発行による調達分は約35.6兆円と全体の約3割を占める。一方で、過去に発行した国債の償還や利払いに充てる国債費は約25.3兆円で、歳出全体の約2割だ。

 河村さんは、自著『日本銀行 我が国に迫る危機』(講談社現代新書)で新規国債の発行がまったくできなくなるケースを想定し、どれだけ歳出を切り詰めなければならないかを試算している。

 新規国債の発行による調達分がなくなれば、歳入は3割減る。すると残りの7割(約78.8兆円)で歳出をやり繰りしなければならない。このとき、財政破綻(デフォルト)を避けるため国債費(約25.3兆円)は削れないから、さらにそのぶんを差し引くと、約53.5兆円しか残らない。

 つまり、この約53.5兆円の範囲内で社会保障費や防衛費といった一般歳出や、地方交付税交付金などの歳出の計約89兆円を賄う必要がある。これらの歳出を一律で減らすとすれば、単純計算でそれぞれの歳出項目を4割カットする必要があることになる。

 河村さんの試算は、歳入における税収や、歳出の国債費は現状と変わらない前提でなされた。そのため、国民が増税の負担を受け入れれば歳出の減額幅は小さくできるという。いずれにせよ、日銀が国債を引き受けられなくなれば、厳しい事態が待っている。

 慶応大学の深尾光洋名誉教授(国際金融論)は「政策の失敗のしわ寄せは、いずれ誰かが引き受けなければならない」と話す。

「出口政策の過程で、日銀に生じると考えられる利払い負担の増加による損失の影響は、国債価格の下落なのか、円安なのか、それとも物価高や増税なのか、どんな形で誰に及ぶのかはそのときの状況によって変わってくる。第1次石油ショック時に日銀の政策失敗が原因で物価が高騰した際には大手商社のトップらが国会に呼ばれ、批判の矢面に立たされた。今回も誰かがスケープゴートにされてしまうかもしれない。しかし、影響がどのように表れても、根本的な原因は日銀と政府による政策の失敗であることに変わりはない」

 日銀はまず、財務の状況や出口政策のあり方について真摯に国民に説明するべきだろう。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2023年4月28日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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