優勝し胴上げされる栗山監督=3月21日、米フロリダ州マイアミ
優勝し胴上げされる栗山監督=3月21日、米フロリダ州マイアミ

「八回に投げたダルビッシュ有以外はみんな初めてのWBC。3番手の高橋宏斗にいたっては二十歳ですからね。大一番ではどうしても経験者に頼りたくなる。こういう選手起用はなかなかできないですよ。日本の野球を変えた、歴史的な場面だったと思います」

 決勝戦終了後の記者会見。栗山は継投策に込めた思いを明かした。

「若いピッチャーがアメリカ打線に対して臆することなく投げた。しっかり投げ切れたことは彼らにとって素晴らしい経験だし、これを見て『かっこいいなあ』と野球をやろうと思ってくれた子供たちが必ずいる。そのことが僕はうれしい」

 小誌3月10日号では栗山監督の参謀を務めた白井一幸ヘッドコーチのコメントをもとにWBC展望記事を掲載したが、その取材時に白井は次のような言葉を発していた。

「特に準決勝以降の一発勝負では、何が起きるかわからない。過去の通りにならないのが一発勝負。最後は投手と打者、一対一の勝負になる。我々も戦術や戦略でサポートをしますが、その先は任せるよ、下駄を預けるよ、と。万全の準備をした上で、あとはなるようにしかならないと開き直れるか。そういう心境で臨めるかが大事になってくると思います」

 信じて任せる。その中で若手投手陣も、打撃不振に苦しんだ村上宗隆も、ここぞの場面で最良の結果を手に入れた。

 2013年から3シーズン、北海道日本ハムのヘッドコーチとして栗山を支え、現在は札幌国際大学スポーツ人間学部の学部長を務める阿井。一つの言葉を提示した。

「ビジュアライゼーションという言葉が心理学の世界にあります。自分が望んでいる現実を想像の中で可視化して、理想の現実を引き寄せるという考え方。侍ジャパンの選手たちを見ていると、みんなそんな感じでした。ベンチの首脳陣を気にしていない。とてもいいことだと思います」

 最後はエンゼルスのチームメート、マイク・トラウトとの一騎打ちを制し胴上げ投手となった大谷翔平。花巻東高3年生の時に自身が作成した人生設計シート、その27歳の欄に記した<WBC日本代表MVP>が現実のものになった。

 そもそもコロナ禍がなければ第5回WBCは2021年に開催されていた。その場合、同年まで日本ハムの監督だった栗山が侍ジャパンを率いた可能性はゼロに等しい。そして大谷も2020年に右腕を痛めており、果たしてWBCで二刀流を貫けたか。MVPの現実を引き寄せられたか。

 阿井が言った。

「もし、野球の神様がいるのだとしたら、栗山さんも大谷も、神様に選ばれた人なんでしょうね」

(文中一部敬称略)(市瀬英俊)

週刊朝日  2023年4月7日号