こうした状態が続くと、物価は少なからず上がっているのに年金額はずっと据え置きで、さらにキャリーオーバーがたまり続ける事態となる。

「キャリーオーバーが『雪だるま』のように大きくなっていく可能性があるのです」(中嶋上席研究員)

 中嶋上席研究員が心配するのは、この動きと消費税率の引き上げが重なったりした場合だ。

「消費税率が上がると物価は確実に上がります。しかしキャリーオーバーがたまっていると、たまった分が差し引かれてしまいますから、税率アップ分、物価は上がっているのに年金額は増えない事態にもなりかねません」(同)

 これこそが「一大事」の中身だ。単年度だと小さい変化でも、何年も続くと「大きな変化」に変換されてしまうのだ。

 高齢化の進展と現在の財政状況を考えると、消費税率の引き上げはありうる事態だ。したがって、こうしたことが起こってもおかしくないという前提で老後資金を準備していくことが大切になる。

 支給抑制策は年金受給者全員が影響を受ける。「高齢になってまで、お金の心配か……」と思う方もいらっしゃるかもしれないが、ここで受給者の年金額を抑えて年金財政を立て直しておけば若い世代の年金額を上げられるのだ。

 中嶋上席研究員が双方の世代に向けてこう言う。

「年金受給世代は生活が苦しくなると思いますが、将来世代にツケを回さないためです。若い世代の年金はもっと厳しくなることに思いをいたし、辛抱してください。若い世代も、高齢者の年金は目減りしていくので、決して『もらいすぎ』などとはいえないことを理解してほしい」

 支給抑制策を通じて、相互理解に努めてほしいというのだ。

■物価上昇の余波、年金額が「二つ」に 「67歳」は要注意!

 物価や賃金の上昇で23年度の「年金額」は増額改定になったが、それらはもう一つ別の変化ももたらした。「もらい始める人」と「もらっている人」で金額が分かれたのだ。二つの年金額が登場し、二度と元に戻ることはないという。

 年金実務に詳しい社会保険労務士の三宅明彦氏が言う。

「2004年に年金改定のルールが今のものになってから、初めてのことが起きました」

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