週刊朝日 2023年2月24日号より
週刊朝日 2023年2月24日号より

 具体的には、まず現役世代の増減と平均余命の伸びをもとに調整率(「スライド調整率」という)が計算され、それが物価や賃金の伸びから差し引かれる。今回の調整率は「0.3%」。

 残りの「0.3%」は、これまで差し引きされずに残った未調整分だ。支給抑制策には、調整率を差し引きするとマイナスになってしまう場合は、ゼロになるまでは差し引くが、それ以上は差し引かず次年度以降に繰り越す。また、物価や賃金がそもそもマイナスの場合は、調整率全部を繰り越す。ゼロ以上に差し引かないことは「名目下限措置」、次年度以降への繰り越しは「キャリーオーバー」と呼ばれている。それらで21年度と22年度に調整できなかった分が「0.3%」分あったのだ。

 少々ややこしいが、以上を図にした。おわかりだろうか。年金額を毎年、賃金や物価の動きに応じて改定するのは年金額の価値を維持するためだ。それらの動きどおりに改定できれば価値は維持されるが、調整率や未調整分が差し引きされるとその分価値は減少する。これが「目減り」の正体である。

 もっとも月15万円の受給者がいたとすると、今回の目減り分は「約900円」だ。「何だ、ラーメン1杯程度か」と思われるかもしれないが、1年分だけで判断してはいけない。支給抑制策は、年金財政が安定するまで続くからだ。23年度だけなら0.6%の目減りだが、これが何年も続くと影響は徐々に大きくなる。

 ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員によると、加えて今後は調整率の数字が大きくなっていくという。

「このところ60歳代前半で働く人が段階的に増えたため、調整率は23年度の0.3%のように0~0.5%程度が続いていました。ただ、この動きも一巡してきていて、今後は本来の少子化が反映された数字になっていきそうです」

■繰り越しが増えたまると「大変」

 中嶋上席研究員によると、あと10年もすれば調整率は1%を超え、その後も1.5%へ拡大していく傾向が続くそうだ。

 経済が好調で物価や賃金も2%程度の上昇率が実現できれば、そこで吸収できるが、これまでの日本のように物価や賃金が上がらない状況なら大変だ。物価や賃金の上昇率が調整率より低いと名目下限措置が働いて年金額は据え置きとなり、調整しきれなかった分はキャリーオーバーで次年度以降に繰り越されていく。

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