「空に星があるように」「いとしのマックス」などのヒット曲を生んだ荒木一郎さん(79歳)が自伝的小説を書いた。それが『空に星があるように 小説 荒木一郎』(小学館、3300円・税込み)だ。60年代半ば、テレビドラマの脇役から映画俳優、スター歌手へと階段を駆け上がった19歳から25歳までを描いている。
なぜ今、小説を書いたのか。絵画や陶磁器が飾られた自宅のサロンで、猫足の肘掛け椅子にゆったりと身を預けた荒木さんは語り始めた。
「俺はあまり自分から動かないんですよ。自分の中にあるものを自分で取り出すのは難しい。そういうエネルギーはあまり持ってないんです。だから人が何か言ってくることがきっかけになる」
今回は以前荒木さんのインタビュー集を作った編集者から、芸能界の話を小説として書いてほしいと依頼されて始まった。もちろん、荒木さんにも考えがあった。
「その時代、そこにいた人たち、出来事を残しておきたかった。いい曲だからレコードを出したいという情熱で人々が動いた時代から、売り上げデータが物事を左右する芸能界に変わる過渡期でした。売れ線より面白さが大事だと言いたかった」
39年前、荒木さんは渋谷にあったジャズ喫茶を舞台に、やはり自伝的な青春小説『ありんこアフター・ダーク』を書いた。新作はその前後の時代まで含め、実名で芸能界の内側をよりリアルに映している。台本を巡る攻防、恋愛、喧嘩や裏切り、ヒット曲誕生の背景も描かれる。
「売ろうと思って歌を作ったわけじゃない。この人に歌いたいと思ったときに生まれた。歌はそういうものだよね。誰か一人のために作った歌でも、そこに人間の基本的なものがあれば他の人たちも受け取っていく」
デビューシングル「空に星があるように」は60万枚を記録した。
「自分はレコードを出したら売れると思ってましたよ。だって歌った相手が泣くんだもの。そういうところが偉そうに見えたんだろうな」