モノレール延伸への期待を込めた懸垂幕が下がる武蔵村山市役所
モノレール延伸への期待を込めた懸垂幕が下がる武蔵村山市役所

「多摩格差」という言葉を聞いたことがあるだろうか。東京23区内と、西側の多摩地域との間に存在するインフラの格差を示す造語だ。2016年、小池百合子氏が都知事選で、公約の一つとして「多摩格差ゼロ」実現を掲げたことからこのネーミングが知られるようになった。

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 とりわけ交通の面から見て、多摩格差を象徴する自治体がある。武蔵村山市だ。昭和期、日産自動車村山工場の誘致に成功し、都心のベッドタウンとして発展を遂げた。その一方、鉄道網の発展からは取り残され、都内の区市の中では唯一、鉄道が通っていない。

 とは言え、住民の数は決して少なくはない。22年12月1日時点で、同市の総人口は7万1349人。千代田区(6万7813人)よりも多く、国立市(7万6246人)よりもやや少ない規模感だ。「駅がない」というハンディキャップがありながら、住民たちはなぜ同市で暮らすことを選ぶのか。

「東京の果て」――。取材のため武蔵村山市を訪れた記者は、思わずこんな呻きを漏らしてしまった。鉄道を使って同市を訪れようとすると、西武拝島線の武蔵砂川駅・西武立川駅、もしくは多摩モノレールの桜街道駅・上北台駅のいずれかで下車し、そこからバス・自転車に乗り換える必要がある。取材時は武蔵砂川駅まで電車で向かい、そこからシェアサイクルを借りたが、市の中心に位置する武蔵村山市役所に着くまでには駅から20分以上かかった。たまに訪れるならまだしも、これが日常となれば負担は大きいのではないか。

「駅まで出るのは、やっぱり一苦労ですね」

 こう実感を語るのは、市内に住む福島よしのさん(62)だ。もとは足立区に住んでいたが、32年前、結婚を機に武蔵村山市内に移り住んだ。現在は立川市内の会社でパートタイムの仕事をしている。通勤時の主な手段はモノレールで、自宅から上北台駅まで自転車を使い、そこから立川市内に移動する。立川駅~武蔵村山市役所の区間はバスも走っているが、利用することはあまりない。

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汚職事件でとん挫した幻の「武州鉄道」計画