「僕は欲張りなんですよ。何も知らない人からプロまで全員が面白く読めるように書こうと思っちゃう。友達とか親戚とか身近な人が読んでくれないと意味がない。そこを両立させようとするから奇書が生まれがちなんです」

 マザー・テレサとの出会い、経済発展前の中国での語学学習、麻薬地帯潜入までの経緯など、過去の著作に入らなかった話も盛り込まれている。

 楽しい内容とは裏腹に執筆には苦労もあり、見出しごとにパタリと筆が止まる瞬間が訪れた。

「書き方が全然わからなくなっちゃって『迷いの森』に入るんです。2、3日パソコンの前で途方に暮れていると、あるときスッと出てくる。自分の中で小人が仕事をしているのかもしれない」

 今まで習った全ての言語を取り上げるつもりだったが、書くにつれて分量が増え、20代の終わりまでで一冊に。高野さんの青春記にもなっている。(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2022年12月2日号