天の丸で客を出迎えるaibo(海栄RYOKANS提供)
天の丸で客を出迎えるaibo(海栄RYOKANS提供)

 キャッシュレス決済や配膳ロボットを導入する宿泊施設も目立つ。草津温泉(群馬県草津町)は19年、地元の商工会がスマホ決済サービス「PayPay(ペイペイ)」と連携協定を結び、老舗を含めた旅館や地域の店での普及を進めている。若者や外国人客らへの対応が主眼だが、使える店が広がれば、温泉街でより手軽に買い物や飲食が楽しめる。

 阿寒湖温泉(北海道釧路市)で鶴雅(つるが)リゾートが運営するホテル「あかん遊久の里 鶴雅」などは、レストランの食事の配膳や下膳に自律走行型の配送ロボットを使う。人手不足を補い、導入によって生まれる余力をサービスの質向上に充てる狙いがあるという。

 客からの問い合わせに答え、需要予測や部屋割りをサポートするAIのシステム開発・導入も進んでいる。

 ロボットを使ったユニークな取り組みもある。海栄RYOKANS(愛知県南知多町)が蒲郡温泉(同蒲郡市)で運営する「天の丸」(同幸田町)は11月から、ソニーグループのペット型ロボット「aibo(アイボ)」を核とした町おこしの取り組みを本格的に始めた。

 チェックイン時には天の丸が保有するアイボが客を出迎え、客室でも触れ合える。11月17日から来年1月末までの期間限定で用意した宿泊プランでは、掛け軸や羽織や浴衣、湯飲みなどアイボをあしらったデザインに囲まれた特別客室に泊まれる。「アイボのオーナーはもちろん、そうでないお客様もアイボと一緒にくつろいでほしい」(広報担当者)

 幸田町にはアイボを作るソニーグループの工場があり、オーナーやファンの間で「アイボのふるさと」として知られる。町役場にアイボがいるカフェを設け、どら焼きやタオルなどの限定商品を販売する。同グループも11月18日、町内の猿田彦三河神社で「七五三」イベントを、19日にはファンミーティングを開く。

 ホテルをはじめ宿泊・旅行業界に詳しいホテル評論家の瀧澤信秋さんはこう話す。

「ネット上で予約できるオンラインエージェントが主流になると、多くの宿泊施設にとって基幹システムの整備が必須になりました。高級ホテルを中心に、人の手によるサービスを重視する施設も省人化できるものはITに任せ、効率化でさらなるサービス向上に注力する例もある。それぞれの戦略や方針に合った形でIT利用はこれからも進むでしょう」

 古き良き温泉宿の風情や伝統を生かしつつ、進化するサービスに期待しよう。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2022年11月25日号

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら