週刊朝日 2022年11月25日号より
週刊朝日 2022年11月25日号より

 各旅館は、データを参考に自らの需要予測や宿泊プランを練ることができる。需要の見通しが立てば、客が多い時期は料金を上げて利益率を高め、少ないタイミングは逆に料金を下げ、集客を強めることができる。食材、商品の仕入れやスタッフの調整がしやすくなる利点も大きい。

 予約や宿泊情報は本来、旅館にとって重要なデータで、他施設と共有するのは難しい。しかし、協議会によると「城崎にはもともと『町全体が一つの温泉旅館』というコンセプトがあり、理解が得られやすい面があった」という。今後は地域の飲食店や土産物店に参加を促したり、近くの観光地と連携したりして温泉街や市の観光戦略に役立てる考えだ。

 下呂温泉(岐阜県下呂市)でも地元の観光協会が中心となり、旅館同士で宿泊データの活用を進める。データの集計そのものは約40年前から手がけていたものの、施設によって異なる形式で集めた情報を手作業で集計していたため、旅館側が見られるまでに時間のラグが生じていた。

 これを20年度にデジタル技術を使って効率的に集められるよう改め、基本的に日次単位で把握できるようにした。

 効果はすでに出ている。宿泊データを分析したところ、下呂温泉を訪れる観光客は、実は愛知県など県外からの客が思っていたより多いとわかり、同県向けの宿泊プランを用意した。ほかの施設に比べて平日の需要が見込めるとわかり、宿泊料金の設定方法を見直したところもある。

 さらに協会は、地域の観光情報を載せたアプリを開発した。登録した観光客が買い物の際にQRコードを提示すれば、額に応じてポイントを与える。どんな客がいつ、どこで買い物したかといった消費データをきめ細かく把握できる。アプリを通じ、客に対して直接呼びかけや働きかけができる点も大きなメリットだ。

 一般的に、旅館側には「旅行サイトや旅行会社を通じて利用する客の連絡先や属性はなかなか把握できない」(別の地域の温泉旅館)といった不満があるとされる。直接アプローチできれば客との関係を深め、リピート客も増えると期待する。

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