「じつは最初に書こうと思ったのが、このカサンドラ症候群と呼ばれる状態でした。モラル・ハラスメント自体も辛いですが、その際身近な人にまったく理解を得られない苦しみは、ものすごく大きいと思います」

 本書を読んで、自分が現在経験している、あるいは過去に経験した苦痛の正体はこれだ、と気づく人はきっといるはず。

「当事者だけでなく、無縁の人にも読んでもらえたら。そうすれば、身近な人がこういう状況に陥った時、“大したことない”と受け流さなくなるかもしれない。そんな希望を持っています」

 本作の主な舞台である滋賀県に移住して2年目となる櫻木さん。

「いろんな土地、いろんな文化、いろんな生き方を描いていきたい。次もまた滋賀を舞台にして、今回とは違うテーマの小説を書こうと考えているところです」

(瀧井朝世)

週刊朝日  2022年11月18日号