石田えり[撮影:植田真紗美 スタイリスト:山田陽子(マージュ) 衣装:SOEJU/ヘアメイク:MARI(SPIELEN)]
石田えり[撮影:植田真紗美 スタイリスト:山田陽子(マージュ) 衣装:SOEJU/ヘアメイク:MARI(SPIELEN)]

 母と娘の微妙な関係を通して、人と向き合うことの難しさを見つめた映画「わたしのお母さん」が11日公開される。井上真央さんが演じるヒロイン夕子の母・寛子役を好演した石田えりさん(61)に本作への思い、自身の監督経験やハリウッド進出について聞いた。

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 本作出演の決め手は二つあったと振り返る。

 まず台本を読んで、人間のはかなさに心がキューッと掴まれたことです。本人なりに一生懸命生きていた人がまるで、泡のようにフッと消えてしまうことを考えてしまって。人は生きている間、一生懸命でいじらしいなと。台本を読んで心が動くことって、あまりありませんからね。もう一つは、企画の三好保洋さんや杉田真一監督から「ぜひ石田さんにこの役を演じてほしい」といった直球なオファーをいただいたことです。普段は、私の今までのイメージやキャリアで依頼をいただくことが多いので、めったにない直球オファーがすごくうれしかったんです。

 ひょんなことから長女夕子のもとで居候することになった寛子。悪気はないが一言多く、家事を仕切り始める。子供の頃から母が苦手だった夕子は、母に息苦しさを感じる一方だ。

「もっとこうすれば(娘との関係が)良くなるのに」と、ツッコミながら台本を読んでいました。コミュニケーション下手なお母さんだなと思いながら。親なのに娘とわかり合えない悲しさや、娘に嫌われていることがちょっとわかった時に言ってはいけないことをチクッて言ってしまう。寛子には負の部分が多くあります。でも、本人は、これはコミュニケーションの問題だというのをわかっていない。だから、必死なんだけどうまくいかない。役を作るにあたって、自分の親やきょうだいとか、親しい人との関係性なども改めて考えましたね。

 現場に入ると、準備していた時とはかなり違っていたという。

 大変な時もありました。混乱したり、わからなくなったり。パニックに近い形になったりしました。この映画は複雑なコミュニケーションなので、かなり影響されました。私は役の準備期間中に見たり聞いたりしてることに影響されやすい。今回一番ヒントになったのは、2019年に92歳で亡くなった俳優の織本順吉さんの最晩年を娘さんが撮ったドキュメンタリーでした。織本さんがあえてだと思うんですが、悪いところも嫌なところも全部さらけ出しているんです。その親子の関係性も参考になったし、役を演じる時の態度もめちゃくちゃ参考になりました。汚いところも全部見せる。それで私も寛子はスッピン(素顔)で演じようと思ったんです(笑)。

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