訪問介護のヘルパーが人員不足なのは「介護保険制度が労働基準法を守れる仕組みになっていないから」と、ヘルパー3人が国を提訴した。高齢者の在宅生活を支える訪問介護を「持続可能」とする制度の見直しを求めている。11月1日、東京地裁で判決が出る。医療ジャーナリスト・介護福祉士の福原麻希氏が訴訟に至る経緯に迫った。

【図を見る】介護サービス従業員はこんなに不足している

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 体と気持ちが思うように動かなくなっても、できる限り、住み慣れた自宅で暮らしたい。そんなとき、介護保険の「訪問介護」では、利用者の家を訪問する訪問介護員(ホームヘルパー、以下ヘルパー)から食事・トイレ・入浴の介助などの「身体介護」や、掃除・洗濯・買い物などの「生活援助」を受けられる。2021年度、約153万人が訪問介護を利用している(※1)。

 ところが、この訪問介護を担うヘルパーが慢性的に不足していて、現場の事業所は大変困っている。19年6月からは有効求人倍率が14~16倍で推移しているほどだ(※2)。その理由は、訪問介護は圧倒的に登録ヘルパー(非正規雇用者)で支えられているが、拘束時間の長さに比べて実働時間が短く、時給換算の給料が少ない。

 労働条件を改善し、慢性的な人手不足を解消するために、ベテランヘルパーの3人、藤原路加(るか)さん(66)、伊藤みどりさん(70)、佐藤昌子(しょうこ)さん(67)が19年から国を相手取って、介護保険制度の見直しを訴える裁判を起こしている。11月1日、東京地裁で判決が出る。

 産業界では人手不足になると、給料は上がる。だが、介護保険による訪問介護は一律公定価格で、特に11年から値上げされていない。さらに、ヘルパーは利用者がコロナ陽性になっても生活を支えるため、感染リスクを覚悟で訪問しなければならない。まるで、ブラック企業特有の「やりがい搾取」(賃金や待遇が不十分のまま、労働者のやりがいによって仕事を成立させている)の状態になっている。

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