原告は、特に、訪問介護特有の(1)訪問先から次の訪問先への移動時間(以下、移動)、(2)次の訪問先の時刻までの調整時間(以下、待機)、(3)訪問したが利用者が不在だったり、当日キャンセルになったりした時間(以下、キャンセル)も労働時間に加えるように主張している。

 このため、3人は実践女子大学(人間社会学部)の山根純佳教授の協力も得て、昨年、全国の訪問介護ヘルパーの状況を調査(※3)し、裁判で証拠提出した。調査では、683人の回答を正規雇用、非正規フルタイム、非正規パート(以下、登録ヘルパー)の3種類に分けて集計した。

 回答者の特徴は、登録ヘルパーが7割弱、女性が9割以上、50代以上が7割弱、5年以上の勤続者が約7割だった。

 厚生労働省は、この移動や待機は介護報酬に含めているため、事業所には「労働時間に含めて賃金を支払うよう」、何度か通知を出している。だが、調査結果では登録ヘルパーの場合、移動は回答者の約3割が「支払われていない」、待機は約8割が「支払われていない」、キャンセルも約6割は「その時間が空き時間になってしまう」と答えた。キャンセル時の支払いは4割強が「当日のキャンセルのみ、休業手当が支払われている」、2割強は「支払われていない」だった。

 それでも、こんなヘルパーの仕事にやりがいを持っている人は多い。「高齢者の生活を支えている」「地域で人命をつないでいる」という実感を持てるからだ。

 福島県郡山市の自宅に住む女性(86)は、夫を亡くしてから一人暮らしをしている。高齢になって足の筋力が衰え、目も見えにくい。このため、日常生活もままならず、要介護4の判定を受けている。家の中で転倒したこともあった。担当するケアマネジャーは、昼間、女性を一人にしておけず、デイサービスへ通えるように手配した。デイサービスへ行けば、入浴介助を受けられ、仲間と一緒に昼食をとれる。

 そのため、朝8時に訪問介護のヘルパーが来る。原告の一人、佐藤さんはデイサービスの迎えが来るまでの1時間で、女性のおむつ交換、ベッド上での着替え、朝食の準備、洗濯、居間までの移動などを介助し、女性の身支度を整える。周囲は「高齢者施設に入りたくない。どうしても自宅で暮らしたい」という本人の希望を尊重して見守る。女性はたびたび佐藤さんの手を握って「私のこと、見捨てないでね」「ありがとうね」とお礼を言うそうだ。

次のページ