だが、特に、地方は厳しい現状に置かれている。佐藤さんの事業所の場合は、福島県郡山市を含めた2市1町をカバーする。大都市のヘルパーは自転車で移動することが多いが、地方の佐藤さんの事業所では片道20~30キロ、自家用車で約1時間かけて訪問先へ行くこともある。移動時間だけでなく、車のガソリン代やメンテナンス代もかかる。

「昨今、地方の遠路で介護度の重い利用者は割に合わないため、大手企業は避ける傾向が見られます。このため、小さい介護事業所がカバーするしかない状況です」と佐藤さんは法廷で訴えた。

 この移動に関する課題は、内閣府の施策(※4)でも取り上げられ、本県山都町の提案に、千葉県、長野県、京都府、高知県なども共同で「訪問介護での移動時間について、介護報酬における取り扱いの明確化と見直し」を求めている。

 また、利用者のキャンセルもよくある。入院・死亡だけでなく、利用者が認知症の場合、カレンダーの訪問日に○を書き込んでいても、その時間帯にスーパーなどへ出かけてしまうことがある。そのたびに、ヘルパーは街に捜しに出る。倒れているかもしれないからだ。

 しかし、介護報酬は出来高制、つまり、実際にヘルパーが労働した分しか支払われていないため、利用者の都合でキャンセルになっても、事業所には収入が入らない。このため、原告の藤原さんの場合はキャンセルで月収が1万~3万円減、コロナ感染拡大下には10万円も減収となった。

 前述の調査では、登録ヘルパーの拘束時間に対する支払いが発生する労働時間(サービス提供時間)も答えてもらった。労働時間は日によるため「労働時間が短い日・長い日」で集計した。「労働時間が短い日」は拘束時間2.47時間のうち、労働時間は1.5時間だった。「労働時間が長い日」は拘束時間6.8時間のうち、労働時間は4.16時間だった。つまり、いずれも拘束時間の6割分の賃金しか支払われていなかった。

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