ライブで観客を盛り上げる鮎川誠さん(撮影:石澤瑤祠)
ライブで観客を盛り上げる鮎川誠さん(撮影:石澤瑤祠)

「いろいろ聴きたい曲がある中で、たとえば4分ある曲が、イントロと間奏を飛ばせば2分半で聴けて、そのぶん多くの曲が聴ける。これも一つの“割り切り”なのかもしれません。曲を聴く目的が、友達と話題を共有するためだったり、TikTokで使われてバズっているフレーズだからそこだけ聴きたかったり、ということもあるかもしれない。要点を押さえればいいという『試験勉強』のような聴き方です」

 ただ、一方でこうした風潮には一抹の寂しさも感じるという。

「サビさえ聴ければいい、という考え方は、食事でいえばメインだけ、しかも揚げ物でいえば衣すら外して、メインの食材だけを味わいたいというのと同じ。そんなふうに割り切った世代が現れてきたことには感心もしますが、個人的には作品をアートとしてとらえるなら、要点だけでなく全体で楽しんでほしい。花の絵でも、花だけ見ていればいいわけではなくて、額縁まで含めて一つのアートだという考え方もあると思います」

 日本を代表するギタリスト・ヴォーカリストであるシーナ&ロケッツの鮎川誠さんは、この現象をどうとらえるだろうか。現在も精力的に全国ツアー中の鮎川さん。熱いライブを繰り広げ、そのギタープレイでライブハウスのファンを沸かせた直後の鮎川さんの楽屋を訪ねると、意外にも(?)、

「僕は、いいんじゃないかと思います」

 と、笑顔で話し始めた。

「僕たちだって、大好きな曲の聴きたいところだけを、レコードの針を同じところに落とし直しては、何度も何度も聴いていました。どこに針を落とせば聴きたいところが聴けるか盤面を見ただけでわかるようになるぐらいに(笑)。どんな弾き方しているんだろうと、回転数を落としたりして何度も聴くこともありました。それと同じなのではないでしょうか」

 そして、こう続けた。

「むしろその曲の一番好きなところを探せていること、今の若い世代も、そのぐらい音楽に興味を持って聴いてくれているんだということのほうに喜びを感じます。どんなきっかけでもいい、いい音楽にどんどん出会ってほしいです」

 レコードからCD、そして配信へと主要な媒体が変わるにつれて、それに合わせた新しいスタイルの音楽も生まれてきた。原田さんは言う。

「パソコン上で素晴らしい作品がいくらでも生み出される時代です。楽器を弾けなくても、頭の中の音が具現化できる。イントロやギターソロにこだわる必要もなくなるような、そんな時代だからこそ誕生する新しい音楽があると思う。新時代の名曲が生まれるんじゃないかと思います」

 今後は一周回って、“サビ抜き”で、ギターソロやイントロだけ聴くほうがかっこいいというブームが来るかも!?(本誌・太田サトル)

週刊朝日  2022年8月19・26日合併号