イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 ある打ち上げでキン芸人の贔屓(ひいき)客が、同席の芸人全員にダメ出ししたことがありまして。しかも祝儀も切らずに。頭に来たその中のAさんが「兄さんのお客さんはホント『キン』ですねー!」と言い放ったら、その客は「そう!俺『きんちゃん』って言われてるんだろ?」と嬉しげ。A「あなたは『キン』の中の『キン』!」キン芸人「失礼だろ!お客様に『キン』とは!」キン客「大丈夫だよ、俺は『きん』なんだから」キン芸人「違うんです! こいつの言う『キン』はその『きん』じゃなくてもう一つの『キン』でして!」キン客「どういうこと?」A「いやいや、いい意味の『キン』ですよ。紛いものなしの純『キン』! ちなみに兄さんも『キン』だから!自覚ないかもしれないけど、『キン』の客は『キン』だね!」……もうめちゃくちゃです。いいこと言うなぁと思ったけど、このAさんも仲間内から『キン』と言われてます。この後はなんだかんだ酔っ払って、3人の『キン』は仲良く2軒目に向かいました。よかったよかった。

 キンは遠くから見てる分にはいいですが、その距離感が難しい。まさに触らぬキンにタタリなし。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!

週刊朝日  2022年7月22日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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