尾上右近が演じる『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=撮影/永石勝(松竹提供)
尾上右近が演じる『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=撮影/永石勝(松竹提供)

──弁天小僧に出会ったと感じたのも03年、1月だった。

 僕が音羽屋、菊五郎のおじさまに預かっていただく、という話になった時に、初めて一人で電車に乗って歌舞伎座に通いました。その時に菊五郎のおじさまが演じていたのが弁天小僧でした。舞台袖から見ると、客席で見ていた印象よりも迫力がすごかった。溌剌(はつらつ)としているし、ギラギラしているし。おじさまと弁天小僧、役と役者がどっちがどっちかわからない。それを目の当たりにしました。

 毎日通っていましたが、千穐楽に「もう明日は見られないんだ、あの楽屋の空気を吸えないんだ」とすごく寂しい気持ちになったことを覚えています。その時は「五人男」それぞれの楽屋も出入りさせていただき、支度も見させていただいていました。「白浪五人男とはこういう演目なんだ」と認識したのはその時だったと思います。あとは、十八代目の(中村)勘三郎のおじさまの弁天小僧を見に行った時は、「いつかあなたもやるんだから」とこしらえ場に来なさいと言ってもらって着替えるところを見させていただいたんです。その時は「いつかやるのかな」と思っていましたが、「ついにやることになりました」と今は言いたいです。

──そんな「弁天娘女男白浪」の面白さとは。

 カッコイイより“悪カッコイイ”はもっとカッコイイ、ということに尽きると思います。綺麗なお嬢さんだと見えた人が、実は男の盗賊だった、というところが面白い。自分の犯した罪に対して開き直っちゃう。何でもやることがカッコよくて粋でスマートで恐ろしい、というのがこのお芝居の面白いところ。あれをやってはいけない、これをやってはいけないと言われて育った自分とは真逆のキャラクターです(笑)。芸は、円熟するにつれ魅力がどんどん変わっていくものだと思いますが、まだ熟していない芸であったとしても、みずみずしさや生々しさなど、「小僧」としての生意気な感じは、僕の年代だからこそリアリティーを持ってお届けできる自信があります。観に来てくださったお客様たちに、「歌舞伎ってイメージと違ったわ!」と喜んで帰っていただき、「また観に行っちゃおうか」と思っていただけるように演じたい。歌舞伎に目覚めた時の気持ちをいま一度思い出して、ワクワクしながら演じたいと思います。

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