広瀬:ほんとですか。実は、夢を見ながら泣くときの泣き方がまったく一緒だったと言われたんです。でも、別々の現場でそれぞれ演じたもので、私は玉季ちゃんのそのシーンを現場で見てないし、彼女もたぶん私がどういう泣き方をしたか知らないと思う。だから周りに言われて、「あ、そうだったんだ」と思いました。

林:撮影の途中から松坂さんと一緒になったっておっしゃってましたけど、テンションをいきなりそこに持っていくのって大変じゃないですか。

広瀬:そうですね。桃李さんは幼少期の更紗とのシーンを先に撮っていたので、更紗との生活を体感していたんです。私は途中から、成長した更紗として文とのシーンが始まるので、李さんから「文と一緒にいると温度差がある。玉季ちゃんと過ごしたときのことを桃李君に聞けば?」と言われて、桃李さんにメールで聞きました。

林:そしたら?

広瀬:「抽象的な言い方しかできないけど、すごく自由だった」って。「自由か。二人にとってどれだけ視野の広い世界だったんだろう」と思って、その言葉に頼って演じるしかなかったですね。

林:映画の途中で、更紗が家を引っ越して、朝起きると窓からの風でカーテンが揺れるじゃないですか。この映画、何度も風のシーンが出てきますけど、その描写が、自由を得たという感じで、桃李さんが「自由」と言ったの、わかるような気がします。

広瀬:本編に使われてはいないんですけど、引っ越す場所を探してるシーンも撮ってるんです。「この川、あの川に似てない?」っていうセリフだったんですけど、昔「誘拐してもらった」あの町、あの公園、あの川がある場所が二人にとっては落ち着くし、一緒にいたい人と一緒にいるということしか、たぶん二人は求めてないんだと思います。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

広瀬すず(ひろせ・すず)/1998年、静岡県生まれ。2012年、雑誌「Seventeen」でモデルデビュー、翌年俳優デビュー。15年の映画「海街diary」で数々の新人賞を受賞。17年「ちはやふる−上の句−」で日本アカデミー賞優秀主演女優賞、18年「三度目の殺人」で同最優秀助演女優賞など、受賞歴多数。その他の出演作に映画「怒り」(16年)、「ラプラスの魔女」(18年)、「一度死んでみた」(20年)など。5月13日から松坂桃李とW主演の映画「流浪の月」(李相日監督)の公開が控える。

週刊朝日  2022年5月6・13日合併号より抜粋