林:そういうことなんですね。私、戯曲って読んでおもしろいと思ったことないんですが、シェイクスピアはおもしろいです。


松岡:ほんと? うれしい! 日本人には戯曲を読むっていう習慣がないですからね。でも、大庭みな子さんあたりまでは戯曲を書いてらっしゃいましたよね。有吉佐和子さんも戯曲を書いてらっしゃるし、明治から大正期、昭和の初期ぐらいまでの作家は、皆さん戯曲をお書きになっていたと思うんですよ。遠藤周作さんだって「黄金の国」で「転びバテレン」のことを書いてらっしゃるし、私、林さんの本を拝読して、戯曲をお書きになったらいいのにと思った。


林:オペラの台本を一つだけ書きましたけど、戯曲って、井上ひさしさんも神経すり減らしてお体壊したって聞きますから、見る専門にしようと。


松岡:あら~、残念だわ。


林:俳優さんって、どんなにテレビや映画で活躍しても舞台をやりたがりますよね。それも「一度はシェイクスピアを」って。


松岡:横田栄司さんという役者さん、いま「鎌倉殿の13人」(NHK大河ドラマ)で和田義盛をやっているんですけど、彼は“シェイクスピア・オタク”。それで、「シェイクスピア・ハイ」があるんだって言うの。


林:ええ。


松岡:たとえば10行のセリフを覚えるときは、1日目に1行、2日目に1行と2行というように、だんだんに覚えていくんですって。そして全部覚えて、いざそれを言う段になると快感になるらしいの。ほかの戯曲では感じられなくて、「味わっちゃうとやめられないんだよね」って。


林:オペラでは、ワグナーをやると“ワグナー・オタク”になっちゃうようなものですかね。


松岡:たぶんそうでしょうね。自分の細胞まで染められちゃうんじゃないかしら。


林:現代の翻訳小説で、皮肉とか比喩を言うとき、注釈に「これはシェイクスピアの何々のセリフ」とか書いてありますよね。海外の人ってほんとにシェイクスピアの一節を言ったりするんですか。

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