松岡:しょっちゅう言います。私いま、ネットフリックスの「ザ・クラウン」にハマってるんですけど、シェイクスピアのセリフがしょっちゅう出てきます。


林:向こうではそういうことが理解できないと、「教養がない人」になっちゃうんですね。


松岡:そうそう。


林:翻訳って日本語が豊かじゃないとできませんが、蜷川(幸雄)さんは松岡さんの訳を非常に評価されてたんでしょう?


松岡:「なんで選んでくれたの?」なんて聞けないですよ、コワくて(笑)。でも、「僕が翻訳者に求めるのは、まずは豊富な語彙」っておっしゃってましたね。


林:蜷川さんは、埼玉の劇場に力を入れてましたよね。


松岡:彩の国さいたま芸術劇場で芸術監督をなさってました。


林:遠いから行ったことないんですが、お年寄りの劇団をつくったり、実験的なことをされてましたよね。いまは吉田鋼太郎さんがシェイクスピア・シリーズの芸術監督なんでしょう?


松岡:そう。このあいだの「終わりよければすべてよし」(シェイクスピア)なんて素晴らしかったですよ。今度「ヘンリー八世」を阿部寛さん主演でやるんです。


林:えっ、阿部寛さんが。


松岡:2020年に同じ劇場でやったんですけど、コロナが蔓延し始めて、最後のほうは中止になって、リベンジで今年の9月に鋼太郎演出でまたやるんです。すてきよ、阿部さんの「ヘンリー八世」。遠いなんておっしゃらないで、ごらんになってくださいよ。彼じゃなきゃできない「ヘンリー八世」だから、絶対見て見て見て!


林:はい、楽しみです。


松岡:ほんとにカッコいいの。「ヘンリー八世」の中に「ha」というセリフがあるんです。この「ha」って何なのか。小田島雄志さんの訳だと、「ええい」だったか、日本人が言いそうな間投詞に変えてあるんですね。文脈から考えてこれがどういうニュアンスで言っているのか、私、すごく悩んで、結局「はっ」ってそのまま書いたの。この阿部ちゃんの「はっ」が実にいいのよ(笑)。

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