(週刊朝日2022年1月21日号より)
(週刊朝日2022年1月21日号より)

「皆さん、今でも会社への愛着を持っている。客観的な目線で会社に対して意見を言ってもらえるのもありがたい」

 山本由佳さんは「再入社を考えている人もそうでない人も、アルムナイ同士の交流は刺激になると話していた」と語る。今後は再雇用に目的を限定せず、退職者同士がゆるやかにつながる場として発展させていきたいという。

 前出のアワードで審査員賞を受賞したのが、「進研ゼミ」などの通信教育事業を展開するベネッセコーポレーションだ。現役社員と退職者を中心に「ベネッセアルムナイネットワーク」が発足し、17年12月に初の催しが行われた。立ち上げにかかわった佐藤徳紀さん(38)は、同社の教育総合研究所に所属する現役社員。「目指すのは、会社と退職者の『終身信頼』関係。ベネッセの事業は、OB・OGとの協業の上に成り立つものも少なくない。退職者をパートナーや協力者ととらえる視点を大切にしたい」と話す。

 コロナの感染拡大前は「ホームカミングデイ」と題して現役社員と退職者の交流イベントを定期的に開いていたが、コロナの感染拡大以降はオンラインに切り替えている。会社のお墨付きを得た活動だが、人財開発部は企画内容には立ち入らない。メンバー間でフラットな関係性を保つため、代表も立てず、イベントごとに持ち回りで幹事を募る。

 杉山亮介さん(40)は、ベネッセグループの編集プロダクションに10年以上勤め、18年に退社した。活動の魅力について、「普段の生活では決して出会えない方々と触れ合える。『一隅を照らす』、たとえ目立たずとも自分の持ち場で一生懸命に働かれている方々と交流ができることの価値は、金銭に代え難い」と話す。

 副業やフリーランスなど多様な働き方が社会に広がる今、「アルムナイ」の存在は、企業と個人の関係性を考え直す手がかりになる。(本誌・松岡瑛理)

週刊朝日  2022年1月21日号