※写真はイメージです (GettyImages)
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 人に迷惑をかける前に尊厳死を──。そう考える人は多い。海外に目を向ければ、安楽死を法的に認める国も増えている。日本でも法制化に向けた動きはあるが、反対意見も根強い。人生の最期をどう迎えるか。誰にでも訪れる死について考えた。

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 11月9日に亡くなった瀬戸内寂聴さんは、本誌1月22日号の連載「老親友のナイショ文」で、「私はたぶん、今年、死ぬでしょう。(数え年で)百まで生きたと、人々はほめそやすでしょう」と記していた。死を意識していた一方で、2月26日号のインタビューでは「死ぬまでにもう一本、長編小説を書きたいのよ」と抱負を語っていた。

 長編小説執筆の願いはかなわなかったが、死の間近まで“現役”として活動を続け、安らかな眠りについた。

 瀬戸内さんのような最期を望む人が多いだろうが、現実にはなかなかそうもいかない。病院で全身に管をつながれ、なかば植物状態で長期間の延命がなされた末に、ようやく死が訪れるケースもないわけではない。

99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さん
99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さん

 尊厳を保ったままに逝きたいという願いから、安楽死を求める人もいる。しかしオランダ、スイス、ベルギーなど限られた国以外では非合法である。

 日本では昨年7月、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)で苦しむ女性から依頼を受け、京都市のマンションで薬物を投与して殺害したとして、2人の医師が嘱託殺人の疑いで逮捕=同罪で起訴=された。彼らは女性の主治医ではなかった。

 たとえ本人から依頼されても死に至らしめるのは、日本では殺人だ。

 では近年、耳にする機会が増えた尊厳死は、安楽死と何が違うのか。

 これについては、東海大学安楽死事件での判決理由が参考になる。

 1991年、東海大学医学部附属病院の内科医が、末期がんの患者に塩化カリウムを投与して死に至らしめた。横浜地裁は被告を懲役2年、執行猶予2年の有罪とした(後に確定)。

 裁判官は、安楽死について三つの種類があると示した。(1)延命治療を中止して死期を早める不作為型の消極的安楽死(2)苦痛を除去・緩和するための措置を取るが、それが同時に死を早める可能性がある治療型の間接的安楽死(3)苦痛から免れさせるため意図的積極的に死を招く措置を取る積極的安楽死である。

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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