小池真理子 (撮影/写真部・松永卓也)
小池真理子 (撮影/写真部・松永卓也)

 昨年、作家で夫の藤田宜永さんを亡くされた小池真理子さん。作家・林真理子さんとの対談では、藤田さんの闘病や死をつづったエッセー『月夜の森の梟』を刊行した理由を明かしてくれました。

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林:お久しぶりです。軽井沢はもう冬の装いですか(取材は11月初旬)。

小池:そうですね。今年の秋は例年より暖かいんですけど、冬はすぐそこまできてる感じです。

林:小池さんの最新刊『月夜の森の梟』は、朝日新聞に連載していらしたエッセーをまとめたものですが、連載中からすごい反響だったんでしょう?

小池:そうなんです。連載を始めたのは去年の6月からだったんですけど、最初の1、2回は感想メッセージがポツポツって感じだったのが、回を重ねるうちにトータルで千通ぐらいメールや手紙をいただいて。

林:亡くなったご主人の藤田宜永さん(作家)との思い出を、素晴らしい文章でつづったエッセーですが、読者からのお手紙を読んで、つらくなったりしませんでした?

小池:ううん。私は読むのがすごく楽しみでした。感想をくださるのは死別を経験した方が多かったです。配偶者だけじゃなくて、両親や兄弟姉妹、恋人、ペットとかいろいろで、一つひとつの手紙にその人の人生が詰まっているんです。「週に1回、この連載を読むと滂沱(ぼうだ)の涙になってしまうので、家族から離れて、誰にも見られないところに新聞を持っていって読んでいます」とか。

林:私も毎週読んでいました。軽井沢の四季を織り込みながら、人が生きるとはどういうことか、死とはどういう意味を持つのか、毎回短い文章でよくここまで掘り下げて書かれて、しかもそれがさりげなくて、作家のワザをみせられたという思いでしたよ。今回、一冊の本にまとまったものを読むと、毎回毎回、同じ感想を持つものがないってすごいなと思いました。

小池:「藤田さんのことを書きませんか」という依頼を受けたのが去年の4月でした。亡くなったのは1月30日だから、まだ2、3カ月しかたっていなかったですね。私はぜんぜん仕事ができない状態だったし、以前の自分とはまったく違う精神世界の中にはまっていた時期でした。すごく迷いましたが、作家って、新しいものを書くときに、何かしら「たくらみ」があるものでしょう。でも、新たな境地なんか切り開こうとしなくていいから、ただただ悲しみにひたっているこの風景を、散文詩のように書いていけるのであれば、と思って引き受けました。

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