保阪:「昭和天皇実録」も出て、昭和天皇の位置づけが時間を経てわかってくることもある。原さんが先駆的に分析していましたが、だんだん材料が出てきて、昭和天皇の心理などは具体的に解明できるようになってきていますね。それを解明しないと、近代日本の君主の最後の姿が明確にならないと思います。

原:まったくおっしゃるとおりです。

保阪:僕らは外野席にいるから言うわけではないですが、斬新な考え方で資料を読み抜いて分析する力を持つことは、アカデミズムの枠内だと難しいのでしょうか。

原:見事に話題が最初に戻ってきたような気がします。保阪さんが若いときの経験を話されましたが、かつては列車のなかで見知らぬ人と話したりするといった、自分を成長させてくれる社会経験の機会がありました。資料を読み込んでいくときに、人間の内面や、この人はいま何を考えているのかといったことに対する想像力を、いまの時代は育てにくくなったのかもしれません。

保阪:半藤さんや僕はジャーナリズムの側から人間を見てきました。そういう観点が近現代史研究に持ち込まれることによって、オーソリティーになることはないけれど広がりができたと思います。いまその広がりができにくくなっている中で、原さんがその役割を担っていると実感します。

(構成/本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2021年11月19日号