※写真はイメージです (GettyImages)
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 コロナ禍で、病院では面会が制限されていることから、「在宅死」を考え始める人が増えているという。本当に自宅で最期を迎えることは可能なのか。手続きは難しくないのか。お金はどれくらい必要なのか。利用できる行政サービスは?

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 大阪府在住のAさん(80)。昨秋から体調不良が続き、病院で検査を受けたところ、末期の胃がんが発覚した。余命は、もって半年。すぐには受け入れがたい事実を、医師から告げられた。詳しい検査を受けると、すでにリンパ節や肝臓にも転移があり、根治は困難だった。

 Aさんは、妻(79)と二人暮らし。車で小一時間ほどの場所に、息子家族が住んでいる。庭いじりと絵を描くことが趣味で、朝晩の散歩も欠かさない。妻と二人、気ままな生活を送っていた。昨夏、近くに住む友人が体調の急変で入院し、コロナ禍で家族との面会も許されない中で息を引き取ったことは、強いショックだった。自分は絶対にそうなりたくない、もし自分に“そのとき”が来たら、自宅で最期を迎えたい──。

 がんが発覚した後、通院しながら飲み薬の抗がん剤を服用し、様子を見ることに。だが副作用から苦しむ日が増え、不安感が大きくなったこともあり、一時は入院した。しかし残りわずかな日常を、家族とも会えない中で過ごすなんて、あまりに悲しい。病院側も「これ以上の積極的な治療は難しい」という。

 Aさんも家族も決心がつき、病院の医療相談室に在宅療養について相談すると、近所で在宅診療を行っている医師につないでくれた。在宅での療養を支えるために、看護師やケアマネジャーも含むAさんのためのチームが組まれた。ベッドやポータブルトイレ、お風呂のシャワーチェアなどの住宅の環境整備、ヘルパーの派遣などの介護態勢もケアマネジャー主導で整えられた。

 Aさんが亡くなったのは、退院から2カ月後のことだ。退院後は、日に日に弱り、昼間でもうとうと寝ていることが多くなった。だが体調が良い日は、庭の手入れをしたり、絵を描いたり、好物のすしを食べたりと、好きなことができた。病院では起床も就寝も決められたスケジュールが求められるが、自宅だと気ままに過ごせる。リラックスしたAさんの姿を見て、家族も「家に連れて帰ってよかった」と思った。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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