菅義偉首相と新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社
菅義偉首相と新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社

 ワクチンの2回目接種が進んできたことも影響しているのか、「第5波」も収まりつつある日本。だが、医療崩壊により多くの自宅死を招いた結果について、英米の対策を知る医師は“人災”と指摘する。海外に学ぶべきこととは──。

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渋谷健司医師(c)朝日新聞社、大西睦子医師(右)
渋谷健司医師(c)朝日新聞社、大西睦子医師(右)

 これは“コロナ棄民”政策による犠牲ではないのか。新型コロナウイルスに感染し、自宅などで死亡した人が、8月に全国で250人に上った。7月の31人から急増し、過去最多となった。第5波が猛威を振るった8月、政府は重症患者や、中等症でも重症化リスクの高い患者以外は自宅療養を基本とする「入院制限」を打ち出した。デルタ株による感染爆発から医療逼迫(ひっぱく)を防ぐ狙いだ。本来、入院や宿泊療養をするべき状態なのに、自宅療養を余儀なくされる人が続出する結果となっている。

 この春まで英キングス・カレッジ・ロンドンの教授を務め、5月に帰国した渋谷健司医師は、日本の現状について怒りを滲ませながら、こう語る。

「保健所の職員が自宅療養の患者さんを観察し、入院が必要かどうかを判断するなんて無理です。最初から医療にかからなければ症状の急変には対処できません。酸素ステーションの設置も、後手の対策を象徴している。酸素が取り込めなくなった人に、酸素だけ投与して回復するわけがない。入院してきちんと治療しなければなりません。ネックとなっているのは病床不足で、大規模な専門病院が必要なことは昨年からわかっていたこと。お手上げになったら患者を自宅放置なんて、あり得ないくらいひどい話です」

 政府はコロナ患者の受け入れを促すため、重症患者向けの急性期ベッドを新たに確保した医療機関に対し、1床当たり最大1950万円を補助しているが、機能していない。中小規模が多い民間病院がコロナ診療のために一般診療を制限し、さらに院内感染が起きれば大きな打撃を受ける。医療スタッフのやり繰りにも限界がある。

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