妻は取り乱すことなく、「それなら仕事を休んで最期まで夫に付き合います」と即答。職場に介護休業を申請し、介護に専念した。それから2週間ほどして、A男さんは自宅で家族や中村医師に見守られながら、静かに息を引き取った。

 今、コロナ禍で病院では面会がほとんどできないので、在宅医療を希望する人が多いという。その流れで「最期まで住み慣れた家で過ごしたい」と在宅死を選ぶ人が増えている。

「自宅で亡くなるときには、最期の瞬間に医師や看護師が立ち会うことは少なく、ご家族だけで看取ることがほとんどです。ご家族から『呼吸が止まった』といった連絡を受けてから医師が訪問し、死亡確認を取った後、死亡診断書をお渡しします。最期までの瞬間はとても大切な時間ですから、慌てて医師や看護師を呼ぶ必要はありません」

 自宅で最期まで過ごすことを考えている場合は、24時間体制が整っている「在宅療養支援診療所」に依頼するのがよいと、中村医師は言う。

 かかりつけ医やケアマネジャー、病院内の医療連携室、地域包括支援センターなどで教えてもらえるので相談してみよう。

 そして気になるのは、お金のこと。在宅医療は高額な費用がかかると思われがちだが、基本、公的な健康保険が適用される。

 例えば、75歳以上で健康保険の自己負担が1割の人は、月2回の訪問で、約6500円程度かかる。ただし、高額療養費制度で70歳以上の自己負担の上限額は、月に1万8千円(一般年収の場合)と決められているので、それ以上の負担はない。

 70歳未満の人は、自己負担が3割になるので、月2回訪問診療を受けると、約2万円。このほかに薬代、介護保険サービスを使えばその分の費用がかかってくる。

「介護保険サービスは65歳以上の方が対象ですが、がんの終末期の方など国の定めた16の『特定疾病』に認定されると、40~64歳の方でも利用できますので、使いたいサービスがあったらあきらめないで、まずは医師に相談してほしい」

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