※写真はイメージです (GettyImages)
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 ライター・長薗安浩氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『震えたのは』(岩崎航著、ナナロク社 1870円・税込み)を取り上げる。

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『点滴ポール 生き抜くという旗印』から8年、岩崎航(わたる)の第2詩集『震えたのは』が刊行され、すぐに入手した。

 岩崎は3歳で難病の筋ジストロフィーを発症。25歳から詩作をはじめて五行歌を詠むようになり、前作では、タイトルどおり「生き抜くという旗」を掲げてみせた。胃瘻(いろう)からの経管栄養と人工呼吸器と介助によって生きる詩人の、それでも誠実に命に向きあう言葉に胸打たれた私は、彼の詩がどのように変化したか気にしながら読み進めた。
<まさに決断の連続で/生きていることが/怖いような/震えるほどに/いのち燃えるような>

 決断を、しかも連続で求められる体験をしたのだろう。初の詩集が大きな反響を呼び、それまでは自宅や家族など閉じられた世界にいた岩崎が、社会や世間の中へ出ていった時の困惑が伝わってくる。実際、彼は24時間の重度訪問介護を行政に申請し、一度は拒まれながらも交渉を重ねて認定されている。また、神奈川県相模原市の障害者施設で凄惨な殺傷事件が起きた際には、障害者の一人としてメディアに発言した。

 酒を呑んだり、髭を生やしたりした上で書かれた詩も登場する。さらには恋愛詩まで綴られ、私は、うなずいた。前作で「生存」の覚悟を宣言した岩崎は、今作で、「生活」する喜びや怖れを詠っていたのだ。あたりまえのような生活を慈しみ、震えながらも自分で考えて生きていこうと、彼は説いていた。

<思いを貫こう/人と自分に/気兼ねしているうち/一生が/終わってしまう>

 岩崎航は灯火(ともしび)のような人だ。どうにか立ってその炎を震わせながら、きょうも誰かの光源となっている。

週刊朝日  2021年7月23日号