相続した土地の所有権を手放したい場合、新制度や相続放棄のほかに、相続財産のプラスの範囲内で、借金などのマイナスの財産も引き継ぐ「限定承認」と呼ぶ相続の仕方もある。マイナスの財産が多いようなときには土地を放棄したり、一部を限定的に引き継いだりできる。

 ただし、新制度や相続放棄がそれぞれの相続人の判断でできるのに対し、この限定承認は相続人全員の合意を取り付ける必要があり、プラスとマイナスの財産の評価・差し引きといった清算や、相続税を払う手続きも面倒だ。最高裁の資料によると、19年度の限定承認の受理件数は657件で、相続放棄の22万5415件に比べ圧倒的に少ない。自分にとって、どの方法を選べばよいか慎重に検討する必要があるだろう。

 大きな変更点は、まだある。今まで期限の定めがなかった遺産分割協議に「10年」という区切りが設定されたことだ。10年経つと、民法で定める「法定相続割合」にもとづいて遺産を配分する仕組みが新しくできる。

 分割協議にあたっては、故人に生前出してもらった学費や住宅費などの「特別受益」を相続人の遺産から差し引いたり、故人の看護や介護を担った相続人の労力や費用、つまり「寄与分」を遺産に加味する、といった考え方がある。

 だが新しいルールが適用されれば、「10年を過ぎると『特別受益』や『寄与分』が反映できなくなります。不平や不満を持つ相続人は多いはず。その結果、分割協議を早くすませてしまおうというインセンティブになるのでは」(前出の吉田弁護士)

 結局、もめごとを減らすには旅立つ人が遺言書を残しておくとよい。誰にどんな財産を残すかはっきりさせておけば、不満は出にくい。元気なうちに家族と話し合っておけば、よりスムーズだ。

 身寄りがなく、法定相続人がいない人は「特別縁故者に対する相続財産分与の申し立て」という方法もある。前出の曽根さんは言う。

「故人と生計を同じくしていた人や、故人の看護や介護を献身的にしていた人らが家庭裁判所に申し立てることで財産を引き継げる場合があります。ただ、相続財産管理人の選任や法定相続人がいないことを確かめるといった手続きが必要。相続する人がいない場合も、やはり遺言書を残しておくと安心です」

(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年7月16日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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