相続コーディネーターで相続支援事業「夢相続」の曽根恵子代表は言う。

「いま住んでいる家や土地が他人の名義だったり、何代も前に亡くなった先祖の名義のまま放っておかれたりするケースもあります。遺産分割をしないまま相続が繰り返されると、土地の共有者が何十人にも膨れ上がり、連絡を取るのさえ難しくなってしまいます」

 申請が義務になれば、一定の歯止めになると期待されている。日本相続学会の副会長や日本不動産学会の理事を務める吉田修平弁護士が続ける。

「自分だけは申請しなくてもバレないだろうと考えるのは間違い。今回、法務局の登記官が住民基本台帳ネットワークシステムなど、ほかの公共機関の情報を使って、名義人が亡くなったり住所を変えたりしたかどうか調べる新しい仕組みができます。すると、よりきめ細かく把握される」

 遺産の分け方がなかなか決まらず、登記をしたくてもできないケースもあるだろう。そんな場合は、やはり新設の「相続人申告登記」という手続きをしておけばいい。「一種の仮登記のようなもの」(吉田弁護士)で、法定相続人の一人がこの手続きをすませておけば、過料は科されない。

 また今回の目玉とも言える大きな変更点が、土地の所有権を国が引き取る制度の新設だ。

 いらない土地を相続した場合、建物や土壌の汚染がない▽埋設物がない▽権利関係の争いがない▽担保になっていないといった一定の条件を満たせば、所有権を手放すことができる。

 前出の吉田弁護士は言う。

「これまで動産や債権の権利を放棄する規定はありましたが、不動産についてのルールはなかった。その意味で画期的。今でも『相続放棄』という手段がありますが、それだと土地だけでなく、ほかの財産を含めてすべての遺産を引き継げなくなる。つまり、『ゼロか100%か』の選択肢。相続放棄を申し立てるには、故人が亡くなってから3カ月以内という期限もあるのに対し、新制度は、土地を相続した後からでも利用できます」

 とはいえ、認められるのは簡単ではない。条件をクリアしているかどうかは法務局が実地調査などを通じて審査する。審査手数料がかかるし、建物がある場合は自分で解体しなければならない。さらに10年分の土地管理費にあたる負担金も払う必要がある。法務省によれば、負担金額の参考となる国有地の10年分の標準的な管理費用は、市街地の宅地200平方メートルで約80万円に上る。

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