相続人のいない空き家の取り壊しに着手する自治体職員 (c)朝日新聞社
相続人のいない空き家の取り壊しに着手する自治体職員 (c)朝日新聞社
(週刊朝日2021年7月16日号より)
(週刊朝日2021年7月16日号より)

 土地の相続や登記に関するルールが大きく変わる。いらない土地を国が引き取る制度の創設を盛り込んだ新法や、相続の際に登記を義務づける改正不動産登記法や改正民法がこの4月に公布された。消費者にとって手間も増えそうだが、便利な制度もある。制度を使いこなすコツを聞いた。

【またまた変わる相続のルール 主な変更点はこちら】

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「弁護士を通して『空き家を解体したいので費用を負担してもらえないか』という相談が突然あり、弱りました。差出人も、その家の住所もまったく心当たりがありませんでしたから。でも、父が名義人になっているというのです」

 都内の印刷会社に勤める50代の男性はこう戸惑う。弁護士に聞くと、岡山県の農村部にあるその家や土地の名義人は、高齢の父を含めて40人あまり。一人ひとりに相談して回っているという。

「寝耳に水で、計300万円近い解体費用のうちどのくらい出すべきか、また言われたとおり工面できるかわかりませんが、差出人も途方に暮れているようでした。もともと、登記しなかったことが原因だというので、父にまったく責任がないとも言えないでしょうし……」

 今回の不動産登記法や民法の改正といった一連のルール変更は、持ち主が誰かわからない土地が増えるのを防ぐ狙いだ。2024年春までに施行される。

 国土交通省の17年の調査によると、登記簿をみても所有者がわからなかったり、持ち主がどこにいるのかわからなかったりする「所有者不明土地」は、国内のすべての土地の実に22%を占める。

 所有者不明土地が生まれる理由の66%は相続登記がないことで、残り34%は住所変更ができていないためだ。

 誰が持ち主かわからないと、空き家や荒れ地が放置されたり、処分できずに開発ができなくなったりする恐れがある。高齢化が進んで亡くなる人が増えれば、問題はもっと深刻になる。

 冒頭の男性のように、ある日いきなり身に覚えのない相談や問い合わせが来る可能性もある。

 現状では相続が発生しても登記は義務ではなく、罰則もない。新しいルールでは、相続したことを知ってから3年以内に登記を申請しなければ、10万円以下の過料を科す。引っ越しで住所が変わったり、結婚などで名前が変わったりした場合も、2年以内に登記しなければ5万円以下の過料が科される。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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