東日本大震災後に議論となった災害の遺構について、井出さんは「取り壊してしまうと、それにまつわる記憶もなくなってしまう」と保存を主張する。「残しておくことで、悲劇の意味を考えていくことが大切なんです」

 井出さんは国際学会に出席するのにあわせ、その近くの世界遺産を旅する。「出世よりも好きなことをやるんだと開き直っています」と笑う。そうやって、現地に足を運んで分かることは多い。

「はじめて行く土地では、まず博物館に行くことをお勧めします。そこに『何が展示されていないか』に注目すると、ダークツーリズムのスポットが見つかります。そういう嗅覚は発達しましたね」

 新型コロナウイルス禍により、身近な土地への旅が見直されている。「その場所にしかない価値」を発見し、地域の財産にするためにも、ダークツーリズムの視点はさらに重要になるはずだ。(南陀楼綾繁)

週刊朝日  2021年7月9日号