市岡さんによれば、10年債利回りの10年移動平均線は、機関投資家らが保有する米国債の平均保有コストを示す。

 少し専門的になるが、10年債の利回りが上がり(債券価格は下落)、移動平均線を上回るということは、投資家の債券保有コストが赤字、つまり含み損を抱えることを意味する。含み損を抱えた投資家が株式や債券などの資産を手放すと、連鎖的な売りを招くケースもある。その場合、「金融ショック」が生じやすいという。

 1987年にニューヨーク株式市場で株価が暴落したブラックマンデーや2000年代に起きたITバブルの崩壊、リーマン・ショックなど、過去の金融危機は「いずれもこの10年移動平均線を上回るか、接近した場面で起きている」と市岡さんは指摘する。

「今のところはこうしたリスクは小さく、金利の上昇によって株式市場が下落しても一時的な変動にとどまるでしょう。ただし、米国の金利の動向は世界経済を左右します。コロナ禍で各国の政府や企業の債務は膨らみ、その利払い負担にも大きな影響を及ぼす。つまり、日本の株価も無傷ではいられません」

 前出の門司さんも、物価上昇(インフレ)のリスクは気にとめておくべきだと指摘する。

「景気回復の勢いが強すぎて、物価が過熱する可能性はある。バブル崩壊後、国内でインフレの怖さを意識する機会は少なくなりましたが、インフレを考慮した投資戦略を立てる必要が出てくるかもしれません。株に投資するときは、インフレ時に価格が上がりやすい石油や鉄鋼など資源関連銘柄のほか、不動産関連などを組み合わせるのも一つの手です」

 まだまだチャンスが眠っているとはいえ、リスクがあるのも事実。ここに掲げた注目銘柄リストも、将来の値上がりを保証するものではない。目利きたちの意見を参考に投資眼を磨き、ぜひ「お宝」銘柄を掘り当ててほしい。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年6月25日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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