脱炭素化でまさに事業の転換を迫られているのが、産業界だ。

 製品やサービスの生産量あたりのCO2排出量を主な業種ごとに比べた。鉄鋼が群を抜いていて、上位は窯業(ようぎょう)・土石製品(ガラスやセメントなど)や、紙・パルプ、繊維業などが目立つ。いずれも、日本の産業基盤を支えてきた素材メーカーだ。

「生産時に多くのエネルギーを使う業種が、同じ生産量でもより多くのCO2を排出する」

 資料をまとめたゴールドマン・サックス証券のシニアエコノミストの太田知宏さんは説明する。

 こうした状況において、産業界への影響が大きいとされるのが、国が検討を進めている「炭素税」。CO2排出量に応じて課税するものだ。

「炭素税のメリットは、政府が対策にあてる財源を得られる点と、CO2排出量の多いところほど利益を得るのが難しくなり、排出削減を進めるインセンティブが働く点です。ただし、デメリットは経済に大きな負担をかける可能性があることです」(太田さん)

 例えば、「日本版の炭素税」と呼ばれる現行の「地球温暖化対策税」の税率は20年4月時点でCO2排出量1トンあたり2.8ドル。

「これを欧州並みの同40ドルに引き上げると、単純計算で約5兆円の税収増になる試算。消費税で言えば、税率を1.4~2.3ポイント引き上げるのに相当します」(同)。5兆円の税収増は、国民全体で1人あたり4万円超の“負担増”となる計算だという。

 さらには欧米で、CO2排出量の多い国から持ち込まれる輸入品に高い関税をかけたり、対策の遅れた国への輸出品を補助金などで支援したりする「国境炭素税」の議論も進んでいる。

「どの国もまだ、検討段階でどうなるかは不透明な部分もありますが、日本の取り組みが遅れているとみなされ、日本からの輸出品に高い関税が課せられれば、日本企業の国際競争力は低下しかねません。生産量あたりのCO2排出量が多く、欧米への輸出比率の高い産業が影響を受ける可能性が高い」(同)

 炭素税や国境炭素税を含め、温室効果ガス排出量に応じて企業や個人に負担を課す「カーボンプライシング」(炭素の価格づけ)に関する国の議論はそれぞれ、夏ごろに中間報告され、年内に一定の方向性が示される見通しだ。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年6月11日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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