千葉県で電設資材の卸業を営む中小企業の総務担当者はこう漏らす。

 取り組みの重要性は感じているものの、経営に余裕がなく、具体的な取り組みには踏み出せていない。「新型コロナや東京五輪への対応もそうだけど、国民に対して十分な説明もなく、一方的に取り組みばかりを求められるようで不満ですね」

 帝国データバンクが20年末から21年初にかけて約2万3千社を対象にした調査によれば、回答企業の43.4%が50年に実質ゼロの達成は「困難」だとした。「達成できない」と答えた割合も17.9%にのぼり、合わせて6割ほどが目標の実現は難しいと考えている状況だ。調査では「具体的な計画と目標がわからない」「何を手始めに重点的に取り組むかなどの明確な説明が必要」といった声が寄せられたという。

「米国や国際社会の圧力に押され、対策を求める業界や企業、さらには与党内の十分な議論もないまま、数合わせのように目標を設定した印象です」

 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志さんは、政府が“見切り発車”で高い目標を掲げたことを懸念する。

 冒頭の温対法は、都道府県や中核市以上の自治体に対して、再生可能エネルギーの導入目標の設定なども義務づける。地域ごとに環境が異なるため、再エネ導入での“格差”が生まれかねない。

 そんな地域差を示すデータを杉山さんがまとめてくれた。県内総生産あたりのCO2排出量を都道府県別に調べた。排出量が多い順1位の大分県と最下位の東京都とでは9倍もの開きがある。

「上位の都道府県ほど、同じお金を生み出すのに、CO2をより多く排出しているということを意味します。炭素税が導入された場合の影響の大きさを表したものと言っていい。上位には日本の工業地帯である『太平洋ベルト』の都道府県が多い。こうした地域は鉄鋼や石油、化学をはじめ、製造業が盛んで、地域の経済や雇用を支えています。CO2の削減対策費用や炭素税の負担がふくらみ、雇用が失われるようなことになれば、地方の経済もダメになってしまいます」(杉山さん)

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