本誌は、国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ副会長が今年3月、大会組織委員会の橋本聖子会長宛てに送った書簡を入手した。その内容は、海外選手が使用している治療用覚醒剤「アデラール」の持ち込みについて、大会期間中に限り特例で認めることを求めるものだ。アデラールは日本の法律では禁止されているが、米国などでは注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療薬の一つ。東京大会でも必要とする選手がいる。

 しかし、大会4カ月前になった段階で、IOC副会長から橋本氏に特例を求める書簡が届くというのも穏やかでない。この問題に詳しい自民党関係者が説明する。

「IOCは2019年10月から昨年11月までの間に、少なくとも7回はアデラールの持ち込みを認めるよう日本側に要請していました。それを組織委員会がずっと放置していたんです。3月にとうとう副会長名で書簡が届き、『このままでは大問題になる』と、急いで法改正することになった」

 自民党内では現在、東京五輪・パラリンピック特別措置法を改正して持ち込みを認める方向で議論が進んでいる。前出の党関係者はこう話す。

「今国会の会期末は6月16日。野党の攻勢が強くなる終盤戦に入っているのに、大会を開くために必要な法案がまだ国会に提出されていないなんて、異常なことです」

 大会のテストを兼ねたプレ大会でも、トラブルが続出している。

 組織委員会は、選手たちの健康を守るために、「バブル方式」と呼ばれる感染対策を採用する予定だ。選手を大きな泡で包むように他人との接触を極力減らし、ウイルスから守るイメージから名づけられた。

 しかし、プレ大会を取材したスポーツジャーナリストは、感染対策の難しさを感じたという。

「他の人と接触させないために、会場と宿泊場所の往復は送迎回数を増やし、極力少ない人数で移動せざるを得ません。プレ大会では、競技が終わったのに何時間も迎えが来ず、ただ待ち続けるしかない選手たちから不満が噴出していました」

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は11日、大会中止を求める元五輪代表選手で米パシフィック大のジュールズ・ボイコフ教授のこんなコラムを掲載した。

「五輪開催へ強引に突進する理由は三つ。カネ、カネ、そしてカネだ」

 思惑が交錯する政界有力者たちの本心はどこに。(本誌・西岡千史)

週刊朝日  2021年5月28日号