『ウサギ』の次は想像画で、(1)が『立方体の断面が三角形、四角形、五角形、六角形になる図を四点描け』、(2)が『無重力の世界』だった。(1)は幾何形態の抽象彫刻をいやというほど練習していたから簡単だったが、(2)がむずかしかった。ただ、モノが空間に浮いている具象画は安易だし、抽象画は無重力であることを伝えるのがむずかしい。わたしは迷ったあげくに、ケント紙の上部に丸い卵大の空白を想定し、そのほかを空白から離れるにしたがって少しずつ濃く塗りつぶしていった。最後、空白部分に無重力を象徴するような小さい球を描くかどうか考えたが、白いままにしたのは、いま思うと正解だったろう。

 実技の次は面接だった。教官室にひとりずつ呼ばれて、短い質問を受ける。彫刻科を受けた動機を訊かれたが、デザイン科の倍率が高すぎるからとは、もちろんいえない。子供のころから平面より立体が好きです、と答えたら、堀内さん(当時の京都美大彫刻科は辻晋堂、堀内正和が二枚看板だった)がフッと笑ったように見えた──。

 わたしが入学した昭和四十四年、京都美大は市立音楽短大と統合し、京都市立芸術大学になった。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2021年4月2日号

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黒川博行

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黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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